Glycoscience World 生化学工業株式会社
[糖質科学の応用展開]医療応用への可能性が広がりつつある糖鎖
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第1回
[糖質科学への招待]
生命現象の隅々で
見え隠れする糖鎖

第2回
[受精]
運命の出会いをサポート

第3回
[エネルギー源]
一番身近な活力の素

第4回
[細胞外マトリックス1]
多機能な細胞のプロテクター

第5回
[細胞外マトリックス2]
健康な体を支える裏方―
コンドロイチン硫酸

第6回
[細胞増殖・分化]
細胞のヒソヒソ話を
漏らさず中継―
ヘパラン硫酸と成長因子

第7回
[血液型]
1つ1つ違った「顔」を持つ細胞

第8回
[がん]
「顔」を整形したがん細胞

第9回
[ウイルス感染]
「顔」見知りを狙い撃ちする
ウイルスたち

第10回
[糖質科学の応用展開]
医療応用への可能性が
広がりつつある糖鎖
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Question
第4回「細胞外マトリックス1」で、ヒアルロン酸は関節疾患の治療薬や、眼科領域の補助剤として使われているという話が出ました。医薬品に利用されている複合糖質は、ヒアルロン酸以外に何があるでしょうか。
Answer

機能の解明が進展するヒアルロン酸については、これまで主に用いられてきた関節疾患や眼科領域にとどまらず、さらに多方面への応用が期待されています。そのほかにも、ヒアルロン酸と同じプロテオグリカン領域に属するヘパリンやコンドロイチン硫酸などの糖鎖も、広く医薬品として用いられてきました。

ヘパリンは、血液中のアンチトロンビンIIIを介して抗凝固活性を発現する特異的な機能をもち、血液循環を維持する薬品として、永年不動の地位を占めています。近年、このヘパリンを改良し、出血作用を減らした低分子ヘパリンが血栓防止薬として使用されるようになりました。さらに、その活性部分のオリゴ糖構造が解明されるにつれて、この活性オリゴ糖鎖を用いた血栓防止剤の開発も進められています。

そして、第5回「細胞外マトリックス2」でも紹介したコンドロイチン硫酸は、半世紀以上にわたり医療用医薬品として使用されてきました。その効能は、関節痛、神経痛、五十肩などに対して認められており、また、角膜の乾燥を防ぐためにも使われ、医療用・一般用点眼薬にも含まれています。ドライアイに悩まされる人々が増え続けている現在、医薬品に応用された複合糖質の中で、私たちに最も身近なものといえるでしょう。

このほか、プロテオグリカン類縁体であるキチンやキトサンなどの多糖についても医療器材などへの応用開発が進められています。キチンやキトサンの原料となるカニやエビなどは資源も豊富で調達が容易なこともあり、今後応用が拡大してゆくと見込まれます。また、微生物がつくるデキストランなどの多糖体が古くから血漿増量剤として輸液に用いられてきたことや、植物由来の多糖が抗癌剤や健康食品などにも利用されていることもあげておきます。しかし、健康食品に使用されている多糖類については、その効能の科学的な解明が今後の課題となっています。






Question
糖質科学の知見が医療に応用されている研究には、どのようなものがあるのでしょうか。
Answer

糖質科学の知見を医薬品に応用した例は、まだそれほど多くはありません。しかし、糖質は、発生および老化のプロセスや、感染、免疫、炎症、がんなどの疾病に固有の役割を果たしており、そのメカニズムの解明が急速に進展する現在、新たな臨床応用への場が開かれることはまちがいありません。

以下に2〜3の例をあげてみます。

インフルエンザの治療薬(ノイラミニダーゼ阻害剤)などは、糖質科学の知見、技術に基づいて開発された例として挙げられます。ウイルスや微生物の感染に関わる、さまざまな細胞表面糖鎖分子とその感染に関わるメカニズムが解明されてきましたので、感染防止、治療剤の開発に一段と拍車がかかることが期待されます(第9回「ウイルス感染」コラム参照)。

がん化に伴う細胞表面の糖鎖の変化やその機構の解明は、がんの診断や治療の指標としてますます有用となってきました(第8回「がん」参照)。また、がんの転移、着床、増殖の場における、ヘパラン硫酸やヒアルロン酸の関与の解明も進展しており、これらのメカニズムの知見からも新規治療薬の開発やより適切な治療指針への寄与が期待されます。

さらに、遺伝子工学手法で大量に合成され、医薬品に応用されるようになった糖タンパク質(生理活性物質)のような例もあります。たとえば、主として腎臓から分泌され、赤血球産生作用を有するエリスロポエチン(EPO)は、腎性貧血の治療に広く利用されています。近年、体内における効果の持続性は、エリスロポエチンの糖鎖末端にあるシアル酸の量に依存することがわかってきました。今後、遺伝子組み換え技術によって生産される活性物質への糖鎖導入は、重要な技術的課題となることでしょう。

Question
現在の糖質科学研究はどのような方向に向かっているのでしょうか?
Answer

糖質科学の研究は、糖鎖生物学と糖鎖工学の2つの分野で展開されていますが、前者では特に疾患との関わりの解明が中心課題であり、後者では分析技術や製造技術が中心課題となっています。

糖鎖合成に関わる主要遺伝子のクローニング研究もほぼ一段落し、今後、それらの遺伝子と特定疾患との関連や、発生から老化に至る生命現象との全般的な関わりが課題となることでしょう。また、その研究を促進するため、有用なデータベースの構築や遺伝子リソース、糖鎖ライブラリーなどの完備、提供なども課題となっています。

具体的な活動例として、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が進めている「糖鎖機能活用技術開発プロジェクト」があります。このプロジェクトは、産官学の協力の下で行われており、1)種々の疾患マーカーなどになりうる糖鎖の精製・特定、2)糖鎖のわずかな構造変化を検出する基盤技術の開発、3)糖鎖の機能検証、4)特定の糖鎖と特異的に相互作用する物質の開発──などを目標に掲げています。

また、このプロジェクト以外にも、糖鎖疾患マーカーを用いた画像診断技術の開発、糖鎖の特異性を活かして薬剤を疾患部位に輸送するドラッグデリバリーシステムの開発、再生医療への応用研究などが行われています。これまで基礎研究中心であった糖質科学が、いわゆる難病の診断や治療へ向けて、新しい段階に入ってきたと言えるでしょう。

そして、これからの糖質科学研究をさらに発展させ、医療への応用の可能性を広げるためでも、ゲノム研究やタンパク研究など他分野との研究連携が重要な課題となってきました。糖鎖のさまざまな機能は、生命をつかさどる他の分子との相互作用によってはじめて発現されます。糖質科学固有の基盤技術の進歩や知識の蓄積ももちろん重要ですが、領域を越えた研究連携が、糖質科学の医療や健康への貢献をより向上させると考えられます。

システム糖鎖生物学などの新たな視点に立った融合研究が、今後ますます必要となってくるでしょう。

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Glycoforum
糖質科学についての最新情報を発信している専門家向けのWebサイトです。

日本糖鎖科学コンソーシアム
日本における糖鎖研究研究拠点をネットワークするコンソーシアム組織です。各省庁を超えた連携体制、研究情報の交換、人材交流、指定拠点研究施設間でのデータベース・ネットワーク構築を目指しています。

参考文献
永井克孝監修: 『未来を拓く糖鎖科学』,金芳堂(2005).

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