Glycolipid
English












セラミドとスフィンゴシン−1−リン酸による細胞の生死の制御

 セラミドはスフィンゴシンを基礎骨格とするスフィンゴ脂質の中心的脂質であるが、1989年に我々が細胞分化による増殖抑制時に細胞内で増加し、外因性の細胞膜透過性の合成セラミドにより細胞分化が誘導されることを報告して以来1),2)、そのシグナル伝達分子としての認識が深まった。一方、スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)は、セラミドがセラミダーゼによりスフィンゴシンに分解され、その後にスフィンゴシンキナーゼによりリン酸化されることにより生成されるが3)、そのケモタキシス作用や血小板からの放出による血小板凝集作用が、初めて五十嵐らにより報告され4)、さらにSpiegelらにより、繊維芽細胞の増殖やカルシウム増加に関係することも示され5)、細胞内シグナルとしてよりむしろ細胞生存や増殖時の細胞間シグナルとしての機能が注目されている。

図1の様に、セラミドは様々なストレスにより、セラミド関連酵素−スフィンゴミエリナーゼ(SMase)、セラミダーゼ、グルコシルセラミド合成酵素(GCS)やスフィンゴミエリン合成酵素(SMS)の制御により細胞内で生成・分解され、その細胞内量を調節する。一方S1PはS1Pリアーゼや脱リン酸化酵素により分解制御される。細胞内セラミドは、アポトーシス誘導シグナルである、カスパーゼファミリーや酸化物質(ROI)などを誘導し、S1Pは細胞外からGタンパク結合性のEDGファミリー受容体を介してPI-3キナーゼ経路を活性化する事が知られている4)。セラミドとS1Pの細胞機能における相互作用は、1996年にセラミドにより誘導されるアポトーシスが、S1PによるプロテインキナーゼC活性の増強を介して制御されることが報告された6)。我々は、図2に示した様なセラミドによるアポトーシス誘導作用がPI-3キナーゼ活性/Aktキナーゼ活性の抑制を介していること、PI-3キナーゼ活性の増強はSMaseの活性を抑制することで、ストレスによる細胞内セラミド産生能の抑制を誘導することを報告した7),8)。また、近年、S1Pの細胞間作用はEDGファミリーがその受容体として同定され、S1Pの下流シグナルとしてGタンパク結合型フォスフォリパーゼCの活性を介した、PI-3キナーゼ活性が重要であることが示され、セラミドとS1Pの相互シグナルの制御をPI-3キナーゼが担っている可能性が示唆されている8)。しかも、予備的実験では、セラミドが直接細胞内でPI-3キナーゼに結合し、その下流の細胞増殖シグナルを制御する可能性も示唆されている9)

以上の様に、スフィンゴ脂質、セラミドとS1Pは細胞増殖・生存ならびに細胞死誘導において相互に深く関連して機能しており5)、最近は、細胞膜上のミクロドメイン構造維持機構での相互作用についても注目されつつある10)
Fig. 1 Ceramide Metabolism
Fig. 2 Correlation between pro-apoptotic ceramide and pro-survival sphingosine-1-phosphate signaling
岡崎俊朗(京都大学医学研究科 血液・腫瘍病態学)
References (1) Okazaki T, Kondo T, Kitano T, Tashima M: Diversity and complexity of ceramide signalling in apoptosis. Cell Signal. 10, 685-692, 1998
(2) Obeid LM, Hannun YA: Ceramide, stress, and a "LAG" in aging. Sci Aging Knowledge Environ. PE27, 2003
(3) Spiegel S, Milstien S: Sphingosine-1-phosphate: an enigmatic signalling lipid. Nat Rev Mol Cell Biol. 4, 397-407, 2003
(4) 五十嵐靖之: 概説 新しい生理活性脂質スフィンゴシン1−リン酸とその受容体研究の流れと今後の課題. 蛋白質 核酸 酵素, 47, 476-479, 2002
(5) Perry DK, Kolesnick RN: Ceramide and sphingosine 1-phosphate in anti-cancer therapies. Cancer Treat Res. 115, 345-354, 2003
(6) Cuvillier O, Pirianov G, Kleuser B, Vanek PG, Coso OA, Gutkind S, Spiegel S: Suppression of ceramide-mediated programmed cell death by sphingosine-1-phosphate. Nature. 381, 800-803, 1996
(7) Kondo T, Kitano T, Iwai K, Watanabe M, Taguchi Y, Yabu T, Umehara H, Domae N, Uchiyama T, Okazaki T: Control of ceramide-induced apoptosis by IGF-1: involvement of PI-3 kinase, caspase-3 and catalase. Cell Death Differ. 9, 682-692, 2002
(8) 近藤忠一, 岡崎俊朗: 生死におけるセラミド, PI-3キナーゼのクロストーク. 蛋白質 核酸 酵素, 47, 442-448, 2002
(9) 岡崎俊朗, 伊東 信: 概説 セラミド・シグナル機構.  蛋白質 核酸 酵素, 47, 438-441, 2002
(10) Gulbins E, Kolesnick R: Raft ceramide in molecular medicine. Oncogene, 22, 7070-7077, 2003
2004年 7月6日

GlycoscienceNow INDEX トップページへ戻る