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One-pot 反応によるオリゴ糖合成

  オリゴ糖鎖は生物学的な認識現象に関与することが明らかになってきており、構造の多様性により細胞の顔として注目されてきている。それに伴い、より簡便かつ汎用的なオリゴ糖鎖の合成法が必要となっている。従来の合成法に注目してみよう。アノマー位に脱離基を有する糖(糖供与体)と遊離の水酸基をもつ糖(糖受容体)との縮合をグリコシル化反応と言う。通常のオリゴ糖鎖の合成では、グリコシル化により得られた新たな糖のアノマー位の保護基を除去し、脱離基を導入して糖供与体とした後、次の糖受容体と縮合を行うか、または新たな糖の水酸基の保護基を除去して糖受容体とし、次の糖供与体と縮合を行う。これらの行程を繰り返し行うことによって、糖鎖を伸長する。One-pot グリコシル化は、これらの繁雑な行程を短縮した、より効率的な合成法と期待できる。
 
 One-Pot(ワンポット)グリコシル化は、糖供与体あるいは糖受容体の反応性の違いを利用し、糖供与体の脱離基と活性化剤の組み合わせを複数用いることにより、1つのフラスコ内で連続的にグリコシド結合を形成させる反応である。以下に例を挙げて説明する。

1) 糖供与体の反応性を変える場合(1)
 D. Kahne らは、フェニルスルホキシドの反応性がベンゼン環上の置換基によって異なることに注目し(反応性:OMe > H)、フェニルスルホキシド糖1、4-メトキシフェニルスルホキシド糖2、さらに還元末端としてフェニルチオ糖3を混在させたまま、活性化剤(TfOH)を加えた。まず、反応性の高い23がグリコシル化反応し4が得られ、反応系中でそのまま脱シリル化を経て、次に1とグリコシル化して3糖5をワンポットで合成することに成功した(式1)。1999年、C.-H. Wong らは4-メチルフェニルチオ糖誘導体の反応性をデータベース化し、それらの反応性の違いからワンポットグリコシル化における理想の単糖の組み合わせを導き出せるシステムを開発し発表している(2)。
2) 糖供与体の活性基と活性化剤の組み合わせを変える場合(3)
 高橋らは、チオ糖がイミデート糖やブロモ糖のグリコシル化の活性化剤に安定であり、かつチオ糖の活性化を阻害しないことに注目した。ブロモ糖6、チオ糖7存在下、ブロモ糖のみ活性化するAgOTf を加えグリコシル化を行った後、還元末端となる9およびチオ糖の活性化剤を加え、直鎖型3糖11を合成した(式2)。またブロモ糖6、チオ糖8、還元末端10を混在させた反応系中に、まずブロモ糖の活性化剤を加え、10の反応性の高い6位のみの水酸基とグリコシル化を行い、続いてチオ糖を活性化させ、次に3位の水酸基とグリコシル化を行うことにより分岐型3糖12の合成も達成した(式2)。
 今後、さらに One-pot で利用できる糖供与体の脱離基と活性化剤の組み合わせを探索し、様々な糖供与体、糖受容体の反応性データを蓄積することにより、求めるオリゴ糖鎖を自在に合成できる手法に発展できると期待される。
高橋孝志(東京工業大学大学院・理工学研究科応用化学専攻)
References (1) S, Raghavan, D, Kahne, J. Am. Chem. Soc. 115, 1580-1581, 1993
(2) Z, Zhang, IR, Ollmann, X-S, Ye, R, Wischnat, T, Baasov, C-H, Wong, J. Am. Chem. Soc, 121, 734-753, 1999 and references therein.
(3) H, Yamada, T, Harada, H, Miyazaki, T, Takahashi, Tetrahedron Lett.,35, 3979, 1994; H, Yamada, T, Kato, T, Takahashi, Tetrahedron Lett. 40, 4581, 1999
2000年 3月 15日

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