Immunity & Sugar Chain
English












LPSとToll-like受容体

 リポ多糖 (LPS) はグラム陰性細菌の細胞外膜の主要構成成分であり、宿主に対して強力な自然免疫誘導活性を 持つことが知られている(1)。LPSは、コア領域とO−抗原からなる親水性の多糖部分と、リピドAと総称される疎水性の糖脂質から構成される両親媒性物質である (Fig. 1)。O−抗原は、細菌種・菌株に特異的なオリゴ糖による繰り返し構造を持っており、グラム陰性細菌の血清学的な分類に用いられている。コア領域は、Kdo やヘプトースといった特徴的な糖成分を含むオリゴ糖であり、その構造はO−抗原多糖よりも多様性が少ない。コア領域も免疫学的作用を示すと考えられているが、いまだ不明な点が多い。リピドAは、リン酸化されたグルコサミン二糖に複数のアシル基が結合した構造をもっており、LPS の免疫誘導活性の本体として認識されている。

 これまでに多くの種類のリピドAおよびその類縁体が単離または合成され、それらの構造活性相関が検討された。その結果リピドAの活性は、脂肪酸の鎖長、結合位置、結合数、およびリン酸基の数など化学構造のわずかな違いによって大きく異なることが示された。さらに、同一構造を持つリピドAでも、動物種によって活性化能に差があることが明らかとなった。例えばヒトにおいて、グルコサミン二糖に2つのリン酸基と6つの脂肪酸を持つ大腸菌型リピドA (Fig. 2A) は最も強い免疫誘導活性を示し、置換基の種類、数が変化すると活性は減弱する。特に4つの脂肪酸を持つリピドA生合成前躯体 (Fig. 2B) はそのような活性を示さず、さらに LPS や上記大腸菌型リピドA の誘導活性を阻害する。しかしマウスにおいては、両者ともに同等の免疫誘導活性を示す。これらのことは、リピドAに対する宿主細胞上の受容体による認識が非常に厳密であることを示している。

 CD14 は、LPS に結合しシグナルを増強する細胞表面レセプターとして報告された。しかし、CD14 は細胞内ドメインを持っていないため、シグナル伝達には直接関与しないと考えられた。近年、マクロファージや樹状細胞などの免疫担当細胞に多く発現しているI型膜タンパク質である Toll-like receptor (TLR) が、宿主の自然免疫系を活性化する際の主要な受容体となっていることがわかってきた (2)。TLR は、細胞外に存在する leucine rich repeat (LRR) 領域で多様な病原微生物の特異的分子群を認識した後、細胞内の Toll/IL-1 receptor (TIR) 領域を介して、MyD88、IRAK、TRAF6、NF-κB によって構成されるシグナル伝達カスケードを活性化し炎症性サイトカインや NO 等の伝達物質を合成させる。現在までに10種類以上の TLR が発見されている。このうち、TLR4 が LPS の受容体であることが以下の事実から明らかにされた。すなわち、LPS 非感受性マウスは TLR4 の TIR 領域に点変異を持っていた。また、TLR4 をノックアウトした細胞は LPS /リピドAに反応しなかった。

 さらに MD-2 と呼ばれる TLR4 の LRR に結合する脂質結合性タンパク質が発見された (3)。MD-2 をノックアウトした細胞は LPS に反応しないないことから、MD-2 がシグナル伝達に必須であることが示された。また、MD-2 が LPS と物理的に結合していること、MD-2 が動物種におけるリピドAの精密な認識に関与していることも示されている。これらのことは MD-2 が TLR4 の補助分子として LPS またはリピドAの認識を高めていることを示している。補助分子を介したリガンドの認識は、TLR4 にのみ特徴的である。しかし、現在のところ TLR4、MD-2、LPS またはリピドA3者の結合についての直接的な証拠は報告されていない。今後、より詳細な LPS /リピドAの認識機構の解明が必要である。

 
Fig. 1 Schematic structure of LPS.
 
 
 
Fig. 2 Chemical structure of lipid A.
 
 
 
Fig. 3 Recognition and signaling pathway of LPS and lipid A.
 
 
橋本 雅仁(朝日大学・歯学部)
References (1) Ulmer, A.J., Rietschel, E.T., Zhringer, U., Hein, H. Lipopolysaccharide: structure, bioactivity, receptors, and signal transduction. Trends Glycosci. Glycotechnol., 14, 53-68, 2002; Alexander, C., Zhringer, U. Chemical structure of lipid A − the primary immunomodulatory center of bacterial lipopolysaccharides. ibid, 69-86; Takada, H., Kotani, S. Structural requirements of lipid A for endotoxicity and other biological activities. Crit. Rev. Microbiol., 16, 477-523, 1989.
(2) Akira, S., Takeda, K., Kaisho, T. Toll-like receptors: critical proteins linking innate and acquired immunity. Nat. Immunol., 2, 675-680, 2001.
(3) Miyake, K. Innate recognition of lipopolysaccharide by CD14 and toll-like receptor 4-MD-2: unique roles for MD-2. Int. Immunopharmacol., 3, 119-128, 2003.
2003年11月12日

GlycoscienceNow INDEX