Proteoglycan

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ヘパリンの位置選択的脱硫酸化

  ヘパリンの構造は不均一であるが、その骨格は主に1,4-位で結合するD-グルコサミン残基とL-イズロン酸残基からなる二糖単位の反復からなっている。この骨格には多数の硫酸基が結合しているため、ヘパリンは生理活性のある種々のタンパク質と相互作用し、その結果、血液凝固阻害活性、細胞増殖活性などの様々な活性を有することになる(1)。ヘパリン−タンパク質相互作用には硫酸基の負電荷の役割が重要であるため、分子中に位置選択的に硫酸基を導入(硫酸化)または脱離(脱硫酸化)することにより、ヘパリンの活性のパターンを変えたり、ヘパリン−タンパク質相互作用に対する個々の硫酸基の役割を解明するためのモデルを作成することができる。ヘパリンの主要な硫酸基にはイズロン酸残基のO-2位に結合したもの(2-O-硫酸基)、グルコサミン残基のO-6位に結合したもの(6-O-硫酸基)およびグルコサミン残基の2位のアミノ基に結合したもの(N-硫酸基)の3種があり、これらは以下に述べるように、それぞれ簡便な化学的方法で脱離することができる。これらの方法を単独または組み合わせて、適当な硫酸化パターンのヘパリン誘導体を調整することができる。
図. Main repeating structure of heparin
de-N-selfation: solvolitic reaction
de-2-O-sulfation: alkali-mediated reaction
de-6-O-sulfation: silylating reagent-mediated reaction
脱N-硫酸化:2-O-硫酸基、6-O-硫酸基およびN-硫酸基は、いずれもヘパリンのピリジニウム塩をジメチルスルホキシド中80℃で4時間程度加熱すると、ソルボリシス反応によって脱離する。このとき反応系に10%(v/v)程度の水またはメタノールが共存すると、反応効率が向上する(2)。ソルボリシス反応でのN-硫酸基の脱離速度は、O-硫酸基よりもはるかに大きいので、穏和な条件(20℃以下の反応温度)を用いることにより、選択的に脱N-硫酸化反応を起こすことができる(3)。脱N-硫酸化によって生ずる遊離のアミノ基は正の電荷を持ち、硫酸基の負電荷と相互作用したり、負電荷のはたらきを阻害するおそれがあるので、通常N-アセチル化によりブロックする。
 
脱2-O-硫酸化:遊離の水酸基と硫酸基が糖の立体構造上で適当な配置にあるとき、強アルカリと反応させると、硫酸基が脱離しつつ環状のエーテル結合を形成することがある。ヘパリンのイズロン酸残基の2-位の硫酸基と3-位の遊離水酸基はトランス配置であり、ヘパリン溶液をアルカリ性に調整したのち凍結乾燥すれば、硫酸基が脱離しつつエポキシド環が生ずる(4)。このエポキシド環は加水分解で開裂し、隣り合う2つの水酸基を与えるが、このとき水酸基の配置がもとのL-イズロン酸と同じになる場合と、これが反転したL-ガラクツロン酸と同じになる場合の2つのルートが可能である。しかし、ヘパリンを0.2 N程度の水酸化ナトリウム溶液に溶かし、これを凍結乾燥し、水に再溶解・透析すれば、水酸基の配置の反転を起こさずに脱2-O-硫酸化を起こすことができる。
 
脱6-O-硫酸化:脱N-硫酸化の項で述べたソルボリシスでは、ヘパリンの各硫酸基の脱離速度はN-硫酸基>>>6-O-硫酸基>2-O-硫酸基の順序であるので、反応条件をうまく選べば、2-O-硫酸基を残したままN-硫酸基と6-O-硫酸基を優先的に脱離させることができる。これに続いてN-再硫酸化を行えば、優先的に脱6-O-硫酸化したヘパリンが得られる(5)。しかし、ソルボリシスでの6-O-硫酸基と2-O-硫酸基の脱離速度が近接しているため、現実には脱6-O-硫酸化が不完全であったり、副反応である2-O-硫酸化の脱離がかなりおこる。これとは異なった脱6-O-硫酸化法として、シリル化試薬であるN-メチル-N-(トリメチルシリル)-トリフルオロアセトアミド(MTSTFA)を用いるものがある(6)。この方法はヘパリンのピリジニウム塩をピリジン中でMTSTFAとともに110℃で2時間加熱するものである。この反応により、O-6のような1級水酸基に結合した硫酸基は脱離するのに対し他の位置の硫酸基は事実上変化を受けない。この反応によりヘパリン中のもともとの水酸基と6-O-硫酸基が脱離して遊離する水酸基にトリメチルシリル基が導入されるが、これは反応後の溶液を水と混合し透析する段階で簡単に除去されて脱6-O-硫酸化ヘパリンが回収される。
高野 良(琉球大学・沖縄工業高等専門学校創設準備室)
References(1)For review, HE Conrad, Heparin binding proteins, Academic Press, New York, 1998.
(2) K Nagasawa, Y Inoue, T Kamata, Carbohydr. Res. 58, 47-55, 1977
(3) Y Inoue, K Nagasawa, Carbohydr. Res. 46, 87-95, 1976
(4) M Jaseja, RN Rej, F Sauriol, AS Perlin, Can. J. Chem. 67, 1449-1456, 1989
(5) H Baumann, H Scheen, B Huppertz, R Keller, Carbohydr. Res. 308, 381-388,
(6) R Takano, Z Ye, T-V Ta, K Kamei, Y Kariya, S Hara, Carbohydr. Lett. 3, 71-77, 1998
2002年 6月 15日

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