Hyaluronan Image Symbol
Iまえがき
II動的な形態形成過程ではヒアルロン酸
リッチマトリックスが細胞を取り囲む
IIIヒアルロン酸は細胞表面レセプターと
相互作用する
IVいくつかのタイプの細胞表面にヒアルロン酸
由来細胞周囲マトリックスが組み立てられる
Vヒアルロン酸は細胞の行動に影響を与える
VI肢節形態形成におけるヒアルロン酸の
多彩な役割
VI数種のガンにおけるヒアルロン酸の
重要な役割
VIおわりに
 Authors' Profile
Bryan P. Toole: Bryan P.Toole はオーストラリアのメルボルンで教育を受け、メルボルン大学で理学士を、モナッシュ大学で生化学の Ph.Dを授与された。Dennis Lowther教授の研究室における彼の Ph.Dの研究では、現在デコリンと命名されているデルマタン硫酸プロテオグリカンを精製単離し、また生理的条件下でデコリンがコラーゲンと相互作用することを最初に証明した。1968年、博士はボストンへ移り、Massachusetts General HospitalとHarvard Medical SchoolのJerome Gross博士の研究室でポストドクとしての研究に取り組んだ。ここでToole博士は、再生と胚の発生過程でヒアルロン酸が、運動性をもち増殖する細胞を取り囲み相互作用することを示した。1972年、博士はハーバード大学職員となり、自分の研究室を創設して胚発育とガンにおけるヒアルロン酸と細胞の相互作用、およびヒアルロン酸レセプターの生化学的性質の究明に取り組んだ。1980年、博士はボストンのTufts大学健康科学分校に解剖学と細胞生物学の教授として加わり、1985〜1992年には同学部の主任であった。現在博士は the George Bates の組織学の教授であり、Tufts大学健康科学分校における細胞、分子および発育生物学の Ph.D.課程の所長を勤めている。博士の研究室は形態形成とガンにおけるヒアルロン酸と細胞の相互作用、さらにガン転移時の、マトリックスメタロプロテイナーゼの制御における腫瘍と基質細胞相互作用の役割に引き続き研究の焦点をあてている。
I まえがき ヒアルロン酸(以下HAと略記する)はほとんどすべてのことが一風変わっており、さらにその並はずれた特質は非常に単純な化学構造に由来している。HAは一律にくり返す直鎖状のグリコサミノグリカンで、グルクロン酸と N-アセチルグルコサミンから成る二糖が2,000〜25,000連なったものである:

[β-1,4-GlcUA-β-1,3-GlcNAc]n

化学的には明らかに単純であるにもかかわらず、HAはその合成のメカニズム、そのサイズおよび物理学的性質において、他のグリコサミノグリカン(以下GAGと略記する)と異なっている。HAのこのような性質は、このシリーズのこれまでの総説に既に述べられている。今回のテーマは、HA生物学におけるもう一つのユニークで重要な側面、つまり細胞の行動に対する効果について扱うこととする。
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II 動的な形態形成過程ではヒアルロン酸リッチマトリックスが細胞を取り囲HAが発見されてから数十年の間その主な機能は、組織に生物物理的性質および恒常性維持を賦与することにあると考えられてきた。しかしながら、1970年代に胚の発育、組織再生および腫瘍発生のような動的細胞システムについての研究がなされたことから、今日我々が理解しているようにHAが細胞の行動で重要な役割を持つことが知られるようになった。1,2 これらの初期の研究では、細胞はHAに富んだ細胞外マトリックスの中で分割し移動すること、またマトリックスにおけるHAの濃度と構成が劇的に変わると、組織や器官の分化を伴う細胞の変化を引き起こすことが発見された。細胞がHAリッチマトリックスに囲まれていて起こる動的な現象の顕著な例としては、
 ・間充織細胞が初期角膜基質に侵入して成熟角膜を形成すること
 ・神経冠細胞が神経管から移動して抹消神経系の神経節を形成する
 ・硬節細胞が脊索に近づいて取り囲み、脊椎を形成する
 ・心臓弁を形成する間に枕細胞が心内膜から心筋層へ移動する
 ・脳の発育において、ニューロンとグリアの前駆体が移動し増殖する
 ・胚の肢節の発育中や、サンショウウオの肢節の再生、腱の再生および胎児の創傷修復の間、間充織細胞は分割し、移動する
 ・腫瘍細胞の成長と浸潤
などがある。1,2 これらの系では細胞の増殖と移動により、はっきりした組織や器官への分化に先がけて、通常適当な数と位置での細胞の集合がまず導かれる。形態形成のこの時期に、細胞周辺のHAは、しばしば濃度が減少し、その後の分化が起こるために必須の細胞の相互作用が始まるのを促進するような方法で再配置される。その例としては、胚の肢節において、筋肉や軟骨が形成される前に細胞が凝縮される(第 VI章)。

HAが細胞の移動を促進する一つのやり方は、細胞周辺で水和した通り道を作り出し、細胞性または繊維性バリアーを細胞が貫通しやすくすることである。これはまた、有糸分裂の間に細胞が丸くなるのも促進するようだ。引き続いて起こるHA濃度の減少により、細胞外マトリックスの容積が減少し、分化に先立って細胞がより密着するように導く。しかしながらこれらの物理化学的効果に加えて、上述した研究から、胚および腫瘍細胞表面にHAレセプターがあることが発見され、またHAが細胞の行動に直接的で深い効果をおよぼすことを決定的に証明する、現代的研究が急増した。1-3
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III ヒアルロン酸は細胞表面レセプターと相互作用する 前述した胚の発育および組織修復に関する初期の研究から、HAは細胞の行動に直接的に影響を与えることが強く示唆された。その結果細胞表面にHAのレセプターが存在する証拠が探され、発見されたのである。引き続いた研究により、細胞表面の二つの種類のHAレセプター,すなわち CD44 とRHAMM2-5 の分子としての性質が全て解明された。これについて以下に短く述べる。a
aCD44 については Cheryl Knudson の、RHAMM2−5については Eva Turley の総説が、今後このシリーズで登場する予定。

CD44 は広く分布している細胞表面糖タンパク質で、単一の遺伝子によりコードされているが、オールタナティブスプライシングの結果、沢山の異性体として発現されている。最も単純で最も広く分布しているのが標準異性体と呼ばれ CD44s と表示される(この代わりにしばしば、造血異性体または CD44H とも呼ばれている)。 CD44s は膜貫通、細胞質および細胞外領域を含み、これは CD44 の全ての膜結合型異性体に共通である (Fig. 1).
Fig. 1 基本型 CD44のタンパク質領域を表したCD44の構造モデル。矢印で示した位置には、約10個の交互にスプライスされた変種エキソンの多様な組み合わせ産物が挿入されており、沢山のCD44異型を生み出している。CD44の細胞外領域は高度且つ多様な糖付加があり、細胞質領域のセリンの幾つかはリン酸化の受容体にもなる。
CD44sの細胞外領域は二つの主なドメインを含んでいる;
(1)N末端領域は“リンクモジュール”であり、多くの HA 結合タンパク質に見られるものとよく似ている。このドメインはHAの結合サイトとして推定されている、がしかし結合には分子の他の領域の例えばグリコシル化、オールタナティブスプライシング、二量体化、細胞膜での集合、それに細胞質領域の完全さなどのポジティブおよびネガテイブな数多くの影響も受ける。4
(2)いわゆる膜に隣接するドメインは、HA結合領域と膜貫通領域の間にある。ほぼ10のエキソンの産物の種々の組み合わせは、膜に近いドメイン内 (Fig. 1) の一つのポジションへスプライシングされ、それにより種々の生理的性質とHAへの結合力の異なる、CD44の数多くの異性体を生じている。

オールタナティブスプライシングはまた RHAMM の数種の異性体を生じており、これらは細胞内型と細胞表面型の異性体を含んでいる。しかしながら、RHAMM は“リンクモジュール”ドメインをもたないが、HA結合が推定されるモチーフすなわち直鎖シークエンス B(X7)B を含む二つの領域を有している。ここでBは塩基性アミノ酸を、Xは非酸性アミノ酸を示す。このシークエンスはほとんどのHA結合タンパク質に存在し、少なくとも部分的にはそのHA結合能力をになうものとされている。

細胞表面のHAとCD44またはRHAMMとの相互作用は、HAの細胞に対する多くの効果を取り次いでいるので、これらの相互作用がこれらの効果をもたらす細胞内シグナルへ変換される生化学的メカニズムについて、現在いくつかの研究グループにより精力的に研究がなされている。多くの有望な研究結果が得られているが、現在のところこれらの相互作用によって開始されるシグナル伝達経路、または細胞骨格の再配列については、コンセンサスがあまり得られていない。
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IV いくつかのタイプの細胞表面にヒアルロン酸由来細胞周囲マトリックスが組み立てられる 数種の細胞は、高度に水和したHA由来の細胞周囲マトリックス、または“コート”をもつことを示している。培養したとき、これらのマトリックスを従来の光学顕微鏡で見ることは困難である。しかしながら、コートは粒子の排除により簡単に間接的に視覚化でき、通常その厚さは5-10ミクロンである (Fig. 2).
Fig. 2 ヒアルロン酸依存的な細胞周辺のマトリックス。ラットの線維肉腫を取り巻く巨大な細胞周辺マトリックス(A)、鶏胚軟骨細胞(B)および鶏胚筋原細胞(C)を示す。マトリックスは粒子(固定された赤血球)排除により可視化された。これらの細胞をヒアルロン酸に特異的なヒアルロニダーゼ゙で処理するとマトリックスは除去される(図省略)。写真CとDは筋原細胞(C)が融合して筋管を形成する際(D)、筋肉発育期に生じる細胞周辺マトリックスの消失を示している。
これらの細胞周囲マトリックスは、その中で数多くの細胞が活性を発現し、また色々な状況下における細胞の行動に影響を与える環境を提供している。例えば組織の形成または修復において、そのようなマトリックスは高度に水和した流動性の細胞周辺の環境を提供し、その中で完全に分化し終わった組織で通常見られる、強く組み立てられた繊維性マトリックスによる妨害なしに、他のマトリックス成分の集合と、成長因子、分化因子の提供を可能にしている。こうして筋肉と軟骨の前駆細胞、胚のグリア細胞、神経冠細胞、さらに胚の上皮細胞を含む様々な胚間充織細胞は顕著な細胞周囲マトリックスを持っている。例えば軟骨の場合などでは、細胞周囲マトリックスは細胞を保護し、分化した特徴的性質に寄与するような独特な構造成分となっている。

細胞周囲マトリックスの機能と組み立てについては、広く、特に軟骨細胞について研究され、三つの特徴に依存していることが示された。6,7
(1)その完全さはHAに依存ししている。したがってHA特異的なヒアルロニダーゼにより細胞周囲マトリックスをもった細胞を処理すると、その構造は壊される。
(2)軟骨細胞の細胞周囲マトリックスの組み立てと密度は、HAとプロテオグリカンのアグリカンとの特異的相互作用に依存する。
(3)HAは細胞表面につながれる必要がある。色々な型の細胞へのHAのつなぎ方は二つの独立したメカニズムによりおこっている。すなわち細胞表面 (Fig. 3A) の特異的HAレセプター(例えば、CD44)への結合によるか、または細胞膜の細胞質面にある (Fig. 3B) HA合成酵素または関連タンパク質と、合成された“初期”のHAとの細胞膜を貫通した相互作用による。軟骨細胞の場合HAはCD44との相互作用により細胞膜表面につなぎとめられている。


Fig. 3 ヒアルロン酸依存的な細胞周辺のマトリックス構造モデル。本文で論じているように、外被形成では通常ヒアルロン酸が細胞表面に繋がっており、プロテオグリカンがヒアルロン酸に付着していることが必要である。ヒアルロン酸の細胞表面への係留は、細胞表面のCD44(A)かヒアルロン酸合成酵素(B)の膜貫通部分との相互作用によって生じる。
細胞周囲マトリックスを持つ多くの胚細胞では、HAはHA合成酵素に結合したままでいることにより、ほとんどの場合つながれているようだ。実際のところ、細胞周囲マトリックスを欠く細胞に対しては、いくつかの場合HA合成酵素の遺伝子導入をするだけで、マトリックスの形成を誘導するのに充分である。しかしながら、合成酵素につながれたHAがプロテオグリカンへの結合もなく、細胞周囲マトリックスを生みだしているかどうかは不明である。理論的にはもし十分高密度のHA分子が細胞表面につながれているとすると、それらは細胞表面から突き出した、伸びた列または“ブラシ”を形成し、自己相互作用により連続したネットワークを形成するであろう。そうであるならばこの配列は、そのようなマトリックスを形成するのに充分であろう。しかしながらプロテオグリカンを加えると、マトリックスの密度を増加させ、また多分マトリックスの安定性を増すことにより、細胞周囲マトリックス形成を促進することは明白である。7 インターαートリプシンインヒビターや TSG-6(tumor necrosis-stimulated gene 6)のような他のHA結合タンパク質が含まれると、この場合もまたHA鎖を架橋することにより細胞周囲マトリックスを安定化させるであろう。
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V ヒアルロン酸は細胞の行動に影響を与える 胚器官の形態形成の時、再生と治癒の際、または腫瘍発生のような病理的過程で、移動し増殖する細胞を囲むマトリックスはHA濃度が高まり、前章で述べた細胞周囲マトリックスに似てくる。これらの細胞事象にHAはどのように影響を与えるであろうか? in vitroin vivoでなされた多くの研究により、現在のところたとえ幾分弱い光ではあっても、この質問に少し光がさしてきた。

HAリッチマトリックスが細胞増殖を促進する重要な方法は、細胞分裂の際、細胞に丸味を与える水和した細胞周囲層を提供することである。HA合成酵素活性は細胞周期により変動し、細胞分裂時にピークとなることが示された。こうして、細胞分裂時に細胞表面にHAが押し出されると、水和した微小環境が創り出され、これにより分裂した細胞が分離し、丸味を帯びることを促進する。この考えを支持するものとして、HA合成を阻害すると細胞が丸味を帯び分離する直前に、細胞分裂での細胞周期停止へ導かれることが示された。8

第II章で述べたように、HAリッチマトリックスは水和した通り道を創り、侵入細胞の貫通に対する細胞性あるいは繊維性のバリアーを分離する。それに加えて、細胞周囲のHAへのプロテオグリカンの結合度合いの変動によるこれらマトリックスの密度の調整は、移動の中止を制御するかも知れない。たとえば、硫酸化プロテオグリカン(以下PGと略記する)はin vitroおよびin vivoにおいて、神経冠細胞の移動と軸索の枝分かれに対するバリアーとして働く。神経冠細胞では、この阻害はPGと細胞表面HAとの相互作用に依存しており、これが細胞周囲マトリックスの密度を上昇させ、これによりマトリックスを細胞移動に対して容易な状態から阻害の方向へ転換させる。6

以前に述べたように、細胞周囲HAは、増殖と移動により細胞がその数と場所において正しく集合した後で、細胞表面との相互作用の変化と共に、その濃度がしばしば減少する。このような変化は、ときに分化に必要な細胞間相互作用が開始するのを積極的に促す。HAに誘導された細胞の凝集は当初、少量のHAをリンパ腫細胞またはマクロファージに添加することにより、これらの細胞の凝集をもたらしたという実験や、内在性のHAを形質転換した線維芽細胞から除去したり、これらの細胞に外部から高濃度のHAを加えると、その凝集が阻害されるという実験で観察された。これらの発見から、細胞表面のHA(内在性または外来性を問わず)は、となりの細胞のレセプターとの相互作用により、細胞同志を架橋すると理解された。したがって、このHAを除くと凝集はブロックされるだろう。過剰のHAを添加すると、全てのレセプターがHAにより占有され、やはり架橋をブロックするであろう (Fig. 4)。1,2 HAに誘導された細胞凝集は、幾つかの胚組織(第VI章とFig. 5参照)の分化において初期の細胞凝集形成をもたらすのである。
Fig. 4 ヒアルロン酸媒介による細胞凝集。ヒアルロン酸はCD44のようなヒアルロン酸受容体を持つ細胞を架橋し、細胞凝集を引き起こす(B)。もし細胞をヒアルロニダーゼ(図省略)または過剰のヒアルロン酸(C)で処理すると凝集は阻止される。
適切な水和環境を提供したり、細胞を架橋するのに加えて、細胞表面レセプターとHAの相互作用は、細胞の移動、増殖または分化を促進する信号経路を開始する。何人かの研究者は次のことを証明した。すなわち、in vitroにおける細胞移動はHAの存在下に促進されること、三次元コラーゲンゲル中への侵入はHA合成に依存すること、また、細胞移動はHAそのものを分解するか(CD44またはRHAMMの)どちらかのレセプターへのHAの結合をブロックすること、の結果として阻害されること。HAとRHAMMとの相互作用により、フォーカルアドヒージョンのキー成分であるp125FAKを含むいくつかのタンパク質のチロシンリン酸化が促進され、その結果フォーカルアドヒージョンの代謝と細胞移動の促進がもたらされる。HAと細胞表面のCD44との相互作用がまた、たとえばグリオーマやメラノーマ細胞のようないくつかの腫瘍細胞において、細胞移動を促進する。こうしてHAとどちらかのレセプターとの相互作用は細胞移動を促進することができるが、その相対的重要度は細胞の型または他の生理的要因に依存するように見える。同様にHAとCD44またはRHAMMとの相互作用は、種々のタイプの細胞での細胞増殖に関する信号経路を刺激する。それにもかかわらずこれらの推定経路の詳細は、細胞増殖についても移動についても明確になったとはいえない。
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VI 肢節形態形成におけるヒアルロン酸の多彩な役割 胚の肢節の発育についてなされたいくつかの研究は、細胞周囲のHA濃度の調整と組織化が、in vivoでの分化に先だって起こる、いくつかの事象に影響するような実例を提供する (Fig. 5)。2,9 初めに、肢節の発育の色々異なったステージにおける、細胞を分離するHAマトリックスの容積は、進行する分化段階によく相関する。初期の肢節中胚葉細胞は、in vivoにおいて広いHAリッチマトリックスに囲まれ分離されており (Fig. 5A) 培養において容積の大きいHA依存の細胞周囲マトリックスを示している。この時期には細胞周囲HAは、レセプターを介さないで細胞表面に結合しており、HA合成酵素との膜を貫通した相互作用で細胞につながれているように見える (Fig. 3B)。 細胞周囲マトリックスは初期の中胚葉細胞の分離を保っており、これは表面結合ポリマーの予測した行動と矛盾しない。すなわちそのたえまない動きにより、並べられた表面上のポリマー分子はかみ合わない。7 先行した章で議論したように、この水和した細胞周囲マトリックスは、肢節組織の初期の間充織前駆体の増殖と移動を促進するであろう。このプロセスは、筋肉の分化のケースで直接的に証明された。この場合、筋原細胞をHAに続けてさらしておくと、増殖と移動は支持されるが、分化は阻害されることが示された。
Fig. 5 胚肢節発育中のヒアルロン酸ー細胞相互作用。本文中で論じているように、早期中胚葉(A)は大きな細胞周辺のマトリックスに囲まれているが、そのヒアルロン酸は細胞膜を貫通するヒアルロン酸合成酵素との相互作用によって細胞表面上に係留されていると考えられる (Fig.3B 参照)。この段階では、細胞周辺マトリックスのプロテオグリカンは主としてバーシカンであり、比較的低濃度で存在する。軟骨や筋の分化に先立つ中胚葉濃縮の際(B)に、ライソゾームのヒアルロニダーゼレベルが上がり、細胞間ヒアルロン酸濃度が著しく低下して、ヒアルロン酸受容体(主としてCD44)が中胚葉細胞表面に現れて、細胞表面のヒアルロン酸が隣接する細胞上の受容体と多価の相互作用を通じて密に架橋する (Fig.4 B参照)。軟骨分化(C)の際は、ヒアルロン酸はCD44に結合したままであるが、この時は主としてアグリカンからなるプロテオグリカンの濃度が劇的に増大し、大きな細胞周辺マトリックスが Fig. 3Aに示したように再形成される。
 前節で述べた肢節発育の初期段階の後で、中胚葉は凝集する。すなわち将来の軟骨と筋肉に分化するサイトでは、細胞間マトリックスは容積が減少する。この時期は、培養において中胚葉細胞が、水和した細胞周囲マトリックスを形成する能力を失う時期と一致している。この凝集の時、中胚葉細胞のライソゾームのヒアルロニダーゼのレベルが上昇し、細胞間マトリックスから多くのHAが除去され、こうして細胞間の容積が減少することが説明される。しかしながら、HAは引き続き細胞表面に保持されているが、このときは中胚葉細胞に現れたレセプターとの相互作用を通して保たれる。この細胞表面HAは、隣接した細胞のレセプターと互いに相互作用し、こうして凝集した中胚葉の中で架橋が成立している (Fig. 5B)。 架橋は前の章で述べたのと類似した方法で起こっている (Fig. 4)。同様の事象が、例えば皮膚や歯のような他の発育中の組織の中胚葉凝集の初期段階に起きている。

凝集した肢節中胚葉から軟骨への次の分化 (Fig. 5C) は、in vivoでの高度なマトリックス形成と、培養においては中胚葉細胞が、広くHA依存性の細胞周囲マトリックスを形成する能力を取り戻すことを伴っている。しかしながらこれらのマトリックスでは、HAはCD44との相互作用により細胞表面につながれており (Fig. 3A)、PG濃度は初期の中胚葉細胞を取り囲んでいたマトリックス中よりもずっと高い。こうして分化した軟骨細胞の細胞周囲マトリックスは、形態形成上の役割というよりもその構造を反映して、初期の中胚葉細胞よりも密度が高いであろう。

軟骨から長管骨への分化の際、肥大化軟骨細胞を囲う小窩はHA濃度が非常に高く、骨の成長に伴いこのHAによってもたらされる膨張圧力により、この小窩の拡大が起こる。その後侵食の領域においては、これら小窩内のHAはCD44を介したエンドサイトーシスにより除去される。10 HAのCD44を介した吸収は、例えば真皮や肺のような他のいくつかの組織の分化において、重要なステップとなっている。

筋肉の分化については、単核の筋原細胞も、in vivoではHAリッチマトリックスにより当初分離して維持され、培養すると大きな細胞周囲マトリックスを作る。しかしながら凝集、融合して筋管を作る過程において、これらの細胞周囲のコートは失われ (Fig. 2C,D)、その後に続く、分化に必要な密接な細胞の相互作用を可能にする。
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VI 数種のガンにおけるヒアルロン酸の重要な役割 多くの悪性の固形ガンは、高レベルのHAを含むが、この高いHA含有レベルは、分化の低さおよびいくつかのヒト腫瘍における生存率の低さと相関する。腫瘍における高含量のHAは、腫瘍細胞そのもの、または腫瘍細胞とそれを取り囲む間質細胞との間の相互作用によって、間質細胞により生産増加が誘導されることによりもたらされるのであろう。11

いくつかのタイプのガンにおける腫瘍の成長と転移には、HAとHAレセプターが関係する、という直接の実験的証拠が得られている。3,12-14 しかしながら、HAとレセプターの相互作用が、腫瘍細胞の行動に影響するメカニズムは明確には理解されておらず、これは現在最も活発な研究分野である。このように詳細は理解されていないが、HAの相互作用をうまく操作することにより、数種のタイプの腫瘍で成長または転移が強く阻害されることは明かである。CD44に対する抗体、CD44またはRHAMMの水溶性型のもの、ヒアルロニダーゼおよびHAのオリゴマーは全て、モデル動物において腫瘍の成長と転移を阻害した。
例えば;
(1)HAポリマーとCD44、またはRHAMMとの相互作用に、拮抗して作用することが期待されるHAオリゴ糖の投与により、in vivoにおいてネズミメラノーマの生長を抑制した。12
(2)培養ネズミフィブロザルコーマ細胞を、体外で可溶性RHAMMと処理することにより、この腫瘍細胞をin vivoで移植したとき、腫瘍の成長と転移が抑制される。13
(3)可溶性型のCD44による、ネズミ乳ガン細胞のトランスフェクションにより、 in vivoにおける腫瘍細胞のアポトーシスが導かれ、肺における転移小結節の形成を完全に阻害する;この阻害は、HAが結合しない変異型可溶性CD44をトランスフェクションに使った場合は起きない。14
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VI おわりに  HAは細胞外マトリックスにおけると同様に、細胞周囲環境の物理的および化学的性質に中心的役割を演じていることは、今や完全に明白である。HAの、ネットワークを形成し、粘弾性があり、電荷を有する性質は、多くの組織の生物力学的性質とホメオスタシスに対して重要なものであり、HAとタンパク質およびPGとの特異的相互作用は、細胞外マトリックスの構造的性質にとって本質的なものである。しかしながら現在、HAは細胞周囲および細胞表面の重要な成分であり、他の巨大分子との相互作用を通して、数多くの形態形成、再生および病理的プロセスにおいて、細胞の行動の制御に深く関わっていることも認識されてきた。

これらの細胞領域における研究は急速に進歩している。特別の興味ある研究が進行中で、それは次のようなものである。
(1)動的な細胞プロセスの間、細胞周囲環境の性質を制御する上でのHA合成酵素の演じる役割と、同様にまた、これらのプロセスを統御する合成酵素活性と、細胞内シグナル伝達経路の間の共同作用に関する研究
(2)種々の細胞事象における、HAポリマーサイズの制御と重要性に関するもの
(3)細胞外と細胞内の間のシグナルの伝達において、CD44やRHAMMのような細胞表面HAレセプターが関与すること、そして細胞の行動におけるこれら信号の役割に関する研究
(4)病気における治療法としての、HAと細胞の相互作用のうまい利用法についての研究
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Dec. 15, 1998 / Copyright (c) Glycoforum. All Rights Reserved

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