Glycoprotein
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ジストログリカンと細胞接着

  ジストログリカンは、骨格筋において形成されるジストロフィン-糖蛋白質複合体の一成分として発見された。一つの遺伝子でコードされているが、翻訳後αとβの二つのサブユニットに切断される。βサブユニットのアミノ酸配列を調べてみると、654番目のセリン残基で切断されることが分かる。αジストログリカンは筋細胞膜の外側に存在し、膜貫通型蛋白質であるβジストログリカンと非共有的に結合している。骨格筋では、カルシウムイオン依存的に細胞外マトリックス蛋白質であるラミニン1やラミニン2と結合している。一方、筋細胞膜の内側では、Fアクチンと結合しているジストロフィンにβジストログリカンは結合している。つまり、ジストログリカンは、細胞外マトリックスと細胞内骨格蛋白質とを繋いだ状態で存在している。こうした存在状態をとっていることから、筋細胞膜の安定化に寄与していると考えられている。Duchenne型筋ジストロフィーにおけるジストロフィンの欠損は、ジストログリカン複合体の消失を引き起こし、結果として筋細胞の変性・壊死をもたらすと考えられている。ジストログリカンは、骨格筋の神経・筋接合部にも存在し、シナプス後膜においてアセチルコリン受容体の凝集を引き起こすアグリンと呼ばれる細胞外マトリックス成分と結合することが知られている。しかしながら、アグリンによるアセチルコリン受容体の凝集にジストログリカンが直接関与するかは議論が分かれており、ジストログリカンが神経・筋接合部の構築過程でどのような役割を果たしているかは不明である。
図

図1 Schematic model of the dystrophin-glycoprotein complex as a transsarcolemmal linker
between the subsarcolemmal cytoskeleton and extracellular matrix.
 ジストログリカンは、筋組織以外にも広く存在している。こうした非筋組織におけるジストログリカンの機能的な役割についてはまだ良く分かっていないが、いくつかの可能性については示唆されている。たとえば、末梢神経では、Schwann細胞に存在しやはりラミニンと結合している。最近の研究によると、末梢神経のジストログリカンはミエリンの形成に関与しているようである。また、脳内ではアストロサイトと血管との接着形成・維持に関与すると言われている。αジストログリカンは、糖蛋白質である。アミノ酸配列からの推定分子量は約74Kであるが、骨格筋では156K、脳や末梢神経では120K、シビレエイの電気器官のシナプス後膜では190K、と組織によって異なる分子量を示す。こうした分子量の違いは、組織により付加している糖鎖が異なるためであると考えられている。それぞれのジストログリカンの糖鎖については、まだあまり良く調べられていないが、糖鎖の化学修飾やシアリダーゼ消化することにより、ラミニンとの結合活性が消失してしまうことから、この結合にはジストログリカン上の糖鎖のシアル酸、特にO結合型糖鎖に結合しているシアル酸が必要であることが分かった。そこで、ウシ末梢神経αジストログリカンのシアル酸を持つO結合型糖鎖の構造を調べてみると、哺乳類では非常に珍しいOマンノシル型糖鎖、Siaα2-3Galβ1-4GlcNacβ1-2Manが主要成分であることが判明した。さらに、この糖鎖の誘導体のみがαジストログリカンとラミニンとの結合を特異的に阻害したことから、Oマンノシル型糖鎖がこの結合に関与していると考えられている。

 ジストログリカンの遺伝子破壊マウスの作成が試みられたが、胎児で致死となり、ジストログリカンは細胞外マトリックス蛋白質の集合に必要不可欠であることが判明した。しかしながら、ジストログリカンの組織特異的な糖鎖の違いや糖鎖部分の細胞接着における役割の詳細については、今後の課題である。
遠藤 玉夫 (東京都老人総合研究所・糖鎖生物学部門)
References(1) Ervasti, JM, Ohlendeick, K, Kahl, SD, Gaver, MG, Campbell, KP : Deficiency of a glycoprotein component of the dystrophin complex in dystrophic muscle. Nature 345, 315-319, 1990
(2) Chiba, A, Matsumura, K, Yamada, H, Inazu, T, Shimizu, T, Kusunoki, S, Kanazawa, I, Kobata, A, Endo, T : Structures of sialylated O-linked oligosaccharides of bovine peripheral nerveα-dystroglycan : The role of a novel O-manosyl type oligosaccharide in the binding with laminin. J. Biol. Chem. 272, 2156-2162, 1997
(3) Williamson, RA, Henry, MD, Daniels, KJ, Hrstka, RF, Lee, JC, Sunada, Y, Ibraghimov-Beskrovnaya, O, Campbell, KP : Dystroglycan is essential for early embryonic development : disruption of Reichert's membrane in Dag1-null mice. Human Molec. Gene, 6, 831-841, 1997
1998年 6月 15日

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