Glycoprotein
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移植と糖鎖抗原

  同種他家移植の際に移植臓器の拒絶に関与する抗原としては主要組織適合性クラスI抗原(ヒトでは HLA、マウスでは H2)そして ABH血液型抗原が重要である。HLAの抗原性はタンパク構造によって決定される。しかし、良く知られているように ABH血液型抗原の決定基は糖であり、糖鎖抗原は同種移植の拒絶においても重要である。
 近年、注目されてきたのは、しかし、異種移植においての糖鎖抗原である。臓器移植において、臓器の絶対数の不足から、他種の、ことにブタの臓器をヒトに移植することが考えられた。この際、まず第一に問題になるのは超急性拒絶反応である。ブタの組織、ことに血管には、ヒトで欠如している抗原が存在し、これに対する抗体がヒトの血液中に存在する。このため、異種臓器移植を行うと、直ちに補体依存性の細胞傷害反応が起り、血管をはじめとする移植された組織が破壊されてしまう。この超急性拒絶反応を抑えることが異種移植を成功させる時の第一の関門となる。
 超急性拒絶反応を引き起す異種移植抗原の本体が追求され、最も重要な抗原はGalα1-3Galβ1-4GlcNAc構造を持つことが判明した。このα-ガラクトース構造は哺乳類では広く分布しているが、ヒトを含む旧世界ザルでは欠失している。そして、α-ガラクトース残基を持つバクテリアの感染などにより、ヒト血液中にはこの構造と反応する抗体が存在する。
 α-ガラクトース抗原に対する抗原抗体反応を抑える手段がいろいろ考えられている。Galα1-3Gal、Galα1-3Galβ1-4GlcNAc、あるいはこれらを高分子量担体に結合させたものによる阻害がまず考えられる。しかし、多量の阻害物質を用意しなければならない点が問題である。酵素的にα-ガラクトース構造を破壊することも試みられたが、多くのα-ガラクトシダーゼは中性付近で作用し難いことが難点である。私達は中性付近で活性が強いエンド-β-ガラクトシダーゼCの利用を考えている。この酵素は抗原構造に働き、Galα1-3Galを遊離する。最も有望と考えられるアプローチは、ブタに遺伝子操作を行い、Galα1-3Gal構造を発現しないようにすることである。Galα1-3Gal構造はGalβ1-4GlcNAc末端を糖鎖受容体としてα-1, 3-ガラクトシルトランスフェラーゼにより形成されるので、この酵素遺伝子を取り除くことが目標となる。通常の遺伝子ノックアウト法は、ブタ由来の胚性幹細胞が実用化されていないため難しい。核移植法がブタでも成功すれば、これを利用するのが早道かもしれない。他の糖転移酵素を過剰発現させて糖鎖受容体に対しての競合により、αガラクトース抗原の発現を低下させることも考えられる。α-1, 2-フコシルトランスフェラーゼ、シアリルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ」が試みられ、有望な結果が得られている。
図:糖鎖抗原に着目した異種移植可能なブタの生成プロジェクト

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村松 喬
(名古屋大学医学部・第一生化学教室)
References (1) Sandrin MS, Vaughan HA, Dabkowski PL, McKenzie IFC : Anti-pig IgM antibodies in human serum react predominantly with Gal(alpha1-3)Gal epitopes. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 11391-11395, 1993
(2) Galili U, Clark MR, Shohet SB, Buehler J, Macher BA : Evolutionary relationship between the natural anti-Gal antibody and the Gal alpha1 -3Gal epitope in primates. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 1369-1373, 1987
1999年 7月 15日

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