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エンド型グリコシダーゼを用いたプロテオグリカンの合成

生理活性を有するグリコサミノグリカン (GAG)糖鎖合成し、これをプロテオグリカン(PG)のコアタンパク質に導入することによって人工PGを合成するという、酵素による糖鎖工学的技術の開発が進んでいる。

図1. グリコサミノグリカン糖鎖のオーダーメイド合成の一例
1. 酵素的組み換えによるGAG糖鎖の合成

GAG糖鎖は、ウロン酸(-グルクロン酸あるいは-イズロン酸)とアミノ糖(N-アセチルガラクトサミンあるいはN-アセチルグルコサミン)で構成される二糖繰り返し単位が連なった高分子多糖(分子量数万から200万)である。ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸(ChS)、デルマタン硫酸(DS)、ヘパラン硫酸(HS)、ヘパリン(Hep)、ケラタン硫酸(ウロン酸の代わりにガラクトースを含む)に大別される。しかし、実際のGAG糖鎖の内部は、均一な二糖繰り返し構造ばかりではなく、結合している硫酸基の数や位置などによる多様性を示し、それらに帰因する種々の生理活性ドメインを含んでいる。

GAG糖鎖に作用するエンド型グリコシダーゼとしては、精巣性ヒアルロニダーゼ(エンド--N-アセチルヘキソサミニダーゼ)があり、本酵素はHAばかりでなくコンドロイチン(Ch)、コンドロイチン4-硫酸(Ch4S)、あるいはコンドロイチン6-硫酸(Ch6S)などにも作用する。また、加水分解酵素である本酵素には、その作用の一つに糖転移反応を触媒することが知られている。この時、供与体、あるいは受容体として、種類の異なるGAG間で糖鎖転移反応を行うと、糖鎖の組み換えが起こる。そこで、このGAGの組み合わせを変えて、更に繰り返すことにより、注文通りの二糖配列を持ったGAG糖鎖の合成が可能となる。実際に、硫酸基に関して異なる配列、すなわち、GlcA1-3GalNAc(4S)1-4GlcA1-3GalNAc1-4GlcA1-3GalNAc(6S)配列を非還元末端側に持つ十糖を例として、その合成過程を図1に述べる。先ず、第一段階として6位に硫酸基を持ったN-アセチルガラクトサミン(GalNAc(6S))を構成糖とするCh6S六糖を受容体とし、これに硫酸基を持っていないN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を構成糖とするChを供与体として糖転移反応を行う。続いて、第二段階としてその合成された八糖を次なる受容体とし、4位に硫酸基を持ったN-アセチルガラクトサミン(GalNAc(4S))を構成糖とするCh4Sを供与体として糖転移させ、最終的に三種類の二糖ユニットが配列された目的とする十糖を合成することができる。


2. エンドーーキシロシダーゼによる糖転移反応の模式図
2. GAG糖鎖をタンパク質に導入するために有効なエンド型グリコシダーゼ

PGの基本的な構造は、コアタンパク質とGAG糖鎖から成っており、GAGはそれらの種類 (ChS, DS, HS, Hep)に関係なく、共通の橋渡し部分(GlcA-Gal-Gal-Xyl)を介してコアタンパク質のセリンと結合している。

PGのGAG糖鎖とコアタンパク質の結合部位に特異的に作用する三種類のエンド型グルコシダーゼ(エンド--キシロシダーゼ、エンド--ガラクトシダーゼ、エンド--グルクロニダーゼ)が知られている。この中で特に、エンド--キシロシダーゼはGAG糖鎖とコアタンパク質の結合部位であるXyl-Ser結合を加水分解するため、完全な形のGAG糖鎖を遊離することが可能である。したがって、本酵素はPGのGAG糖鎖分析の重要なツールとして有用である。もう一つの重要な点は、加水分解反応の逆反応、即ち、糖鎖転移反応である。供与体としてペプチドの付いたChS糖鎖、受容体としてはパラニトロフェニル(pNP)-グリセロールを用いて、糖転移活性を調べたところ、図2のように分子量40,000のChS糖鎖を受容体に転移付加させる糖転移活性を示した。更に、DSやHSも同様に転移付加させることが可能である。したがって、遺伝子工学的に産生されたGAG糖鎖欠落PGへのGAG糖鎖の復元、あるいは、天然のPGのGAG糖鎖の改変、更には、酵素的組み換えによって合成した人工GAG糖鎖付加による新しい機能性PGの合成など、今後の発展が期待される。

高垣 啓一(弘前大学・医学部生化学)
References (1) Takagaki, K, Kon, A, Kawasaki, H, Nakamura, T, Tamura, S, and Endo, M: Isolation and characterization of Patinopecten mid-gud gland endo--xylosidase active on peptidochondroitin sulfate. J. Biol. Chem., 265, 854-860, 1990
(2) Takagaki, K, Ishido, K: Synthesis of chondroitin sulfate oligosaccharides using enzymatic reconstruction. Trends. Glycosci. Glyc. 12, 295-306, 2000
2001年 12月 15日

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