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ファージディスプレイ法:ガングリオシド-ペプチド間相互作用の解析

 1993年G. P. Smithらのグループは、標的分子に結合するペプチド配列をライブラリー群から効率よく同定する方法を開発した。この方法は繊維状ファージの外殻タンパク質にライブラリー化されたペプチドを提示させていることからファージディスプレイ法と呼ばれている (1)。この方法の最大の特徴は、外殻タンパク質に表現されているペプチド配列は、ファージDNAのシークエンス解析を行うことで容易に同定できることである()。
 提示に用いられるライブラリーは抗体や酵素などのタンパク質、直鎖状および環状の短鎖ペプチドなどがあり、提示される分子数はpIIIタンパク質(外殻非主要タンパク質)に提示させる場合では最大3-5コピー、pVIII(外殻主要タンパク質)では2700コピーであるとされている。またライブラリーのサイズは108-109程度であり、このサイズではすべての組み合わせを含むアミノ酸の数は理論上では6-7個である(206=6.4×107)。よって、ランダム化されているペプチドの長さが15アミノ酸残基では、全ての配列を含むことはできない。標的分子には抗体や受容体などのタンパク質、核酸、複合糖質、低分子化合物、細胞、臓器、プラスチックなど多様なものが用いられている(2)。標的分子に特異的に結合する分子が欲しいとき、あるいは結合に関わるペプチド配列のエピトープを知る目的で用いられている。現在ではいくつかのファージライブラリーが市販されており、安価で購入することができる。

 ファージディスプレイ法を用いることで、ガングリオシドの糖鎖とタンパク質中のアミノ酸との相互作用を解析することが出来る。ランダムなペプチドライブラリーの中から標的分子のオリゴ糖鎖に結合するペプチド配列をセレクションすることで、糖鎖の認識に関わるアミノ酸を特定することが出来る。またセレクションで得られたアミノ酸配列が天然タンパク質の糖鎖認識部位と相同性があるか、何らかの規則性があれば生体内糖鎖-タンパク質相互作用を理解する手助けとなる可能性がある。セレクションの成功は、標的分子の固定化が影響する。例えば糖脂質の糖鎖に結合する分子を得るためには、生体膜に見られるように規則正しく配向した膜を用いることが重要である。無秩序な膜を用いれば糖鎖以外の部分に結合するペプチドもセレクションされてしまう。事実、糖脂質を無秩序に吸着させた膜を用いてパニングを行っても、特異的なペプチドはセレクションされなかった。これに対して、糖脂質分子を配向化した単分子膜を基板に累積してパニングを行うと特定のペプチド配列がセレクションされた。

 例えば、ガングリオシドGM1 (Gaβ1→3 GalNAcβ1→4 (NeuAα2→3) Galβ1→4 Glcβ1→1'Cer)に対してセレクションを15アミノ酸残基のランダムペプチド配列を提示しているファージライブラリーを用いて行った()。その結果、3種類のペプチド配列のみがセレクションされた(3)。これら3つの配列は天然の糖鎖結合性タンパク質との相同性はなかったが、二つの配列の間に共通モチーフf/wRxL-Px-Fxx-R-xPが見つかった。セレクションされたペプチドはコレラトキシンBサブユニットの結合をIC50=1.0μMで阻害した(3)。Rはシアル酸との相互作用に、FやLはガラクトースとのスタッキングに、さらにPはペプチド鎖の折れ曲がりに関与していると考えられる。また、GM1以外の糖脂質に対してもセレクションを行うことができ、ガングリオシドへの結合に必要な配列の一般法則を導く実験が進行中である。

 このファージディスプレイ法によるセレクション技術ではタンパク質の糖鎖の認識部位に結合する糖鎖レプリカペプチドを得ることも出来る(4)。このような糖鎖レプリカペプチドは糖鎖を認識するタンパク質やそれを発現した細胞の接着を阻害する分子として用いることが出来る。ファージディスプレイ法は糖質研究を進めるうえにおいて、新しい研究手段として有用である。
松原 輝彦(徳島大学工学部・化学応用工学科)、
佐藤智典(慶応義塾大学理工学部・応用化学科)
References (1) Smith GP, Scott JK, Methods Enzymol. 217, 228-257, 1993
(2) Smith GP, Petrenko VA, Chem. Rev. 97, 391-410, 1997
(3) Matsubara T, Ishikawa D, Taki T, Okahata Y, Sato T, FEBS Lett. 456, 253-256, 1999
(4) Ishikawa D, Kikkawa H, Ogino K, Hirabayashi Y, Oku N, Taki T, FEBS Lett. 441, 20-24, 1998
2001年 9月 15日

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