Nervous System & Sugar Chain
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神経筋接合部におけるパールカンの役割

パールカンはすべての基底膜に存在するほか、軟骨などに存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンである。5つの機能ドメインからなるコアタンパク質は400kDaに及び、N末端とC末端にヘパラン硫酸鎖の結合部位が存在する。パールカンは成長因子シグナルを修飾し、細胞の増殖、分化を制御するなどの種々の生物学的活性を持つ。これらの結果はほとんどin vitroの実験で確認されてきたが、近年、遺伝子改変マウスの解析や、ヒト遺伝性疾患の同定によりパールカンの発生や疾患における重要性が明らかになってきた。

我々は二つの予後の異なる疾患の原因遺伝子がともにパールカンであることを報告した。パールカンの機能完全欠損はノックアウトマウスの症状とよく似た周産期致死性のSilverman-Handmaker 型軟骨異形成症(DDSH)を、機能部分欠損では軟骨病変と筋持続収縮(ミオトニア)を併せ持つSchwartz-Jampel 症候群 (SJS)を発症することを示した。さて、パールカンは筋組織においても基底膜の重要な構成成分であるが、発生が成熟するに従い神経筋接合部に多く存在してくる。神経筋接合部においては、アセチルコリン(ACh)とニコチン型ACh受容体の結合が後シナプス膜の脱分極を引き起こし筋が収縮する。筋の収縮と弛緩を速やかに制御するため、ここにはACh受容体やアセチルコリンエステラーゼ(AChE)をはじめとする多くの分子が集合して共同して働く必要がある。AChE はAChを加水分解することにより、この反応を終息させるとともに、AChのリサイクルに貢献する酵素である。神経筋接合部ではコラーゲン様の分子(collagen-like tail subunit; ColQ)ドメインをもつ基底膜特異的なAChEが存在するが、in vitroの実験結果から、この分子がパールカンと結合することが想定されていた。パールカンノックアウトマウスは周産期に死亡するが、筋の発生、分化、神経支配、神経筋接合部形成は少なくともこの時期まではほぼ正常に達成されていた。ところが、ACh受容体、アグリン、ラプシン、αジストログリカンといった神経筋接合部集合分子の集積に異常がないのに、AChEのみが特異的に欠損していることが解った。ノックアウトマウス筋全体の生化学的解析ではColQ フォームを含めたすべてのAChEが発現していることから、産生されたColQフォームが神経筋接合部に局在化することの障害によると考えられる。この結果はAChEの神経筋接合部への局在にパールカンが必須の働きをすることを示唆している。このことがSJSにおける筋の持続収縮(ミオトニア)と関連すると考えられ、新しいモデルマウスを使った電気生理学的解明や治療実験が期待される。

図1 神経筋接合部でのパールカンの機能
 
 
平澤恵理(順天堂大学医学部脳神経内科)
References (1) Arikawa-Hirasawa E, Watanabe H, Takami H, Hassell JR, Yamada Y: Perlecan is essential for cartilage and cephalic development. Nat. Genet. 23, 354-358, 1999
(2) Arikawa-Hirasawa E, Wilcox WR, Le AH, Silverman N, Govindraj P, Hassell JR, Yamada Y: Dyssegmental dysplasia, Silverman-Handmaker type, is caused by functional null mutations of the perlecan gene. Nat. Genet. 27, 431-434, 2001
(3) Arikawa-Hirasawa E, Le AH, Nishino I, Nonaka I, Ho NC, Francomano CA, Govindraj P, Hassell JR, Devaney JM, Spranger J, Stevenson RE, Iannaccone S, Dalakas MC, Yamada Y: Structural and functional mutations of the perlecan gene cause Schwartz-Jampel syndrome, with myotonic myopathy and chondrodysplasia. Am. J. Hum. Genet. 70, 1368-1375, 2002
(4) Arikawa-Hirasawa E, Rossi SG, Rotundo RL, Yamada Y: Absence of acetylcholinesterase at the neuromuscular junctions of perlecan-null mice. Nat. Neurosci. 5, 119-123, 2002
Links
PG-A09 基底膜のプロテオグリカン(朔 敬)
2004年8月6日

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