Proteoglycan
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プロテオグリカン (Proteoglycan)--

柳下 正樹(東京医科歯科大学・歯学部)
  プロテオグリカンは、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸などのグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)と呼ばれる硫酸化多糖がタンパク(コア[中心]タンパク、core protein、と呼ばれる)に共有結合してできる広義糖タンパクの一種である。現在までに20数種類の異なった遺伝子産物であるコアタンパクを持つプロテオグリカンが見出されており、それぞれ異った分子構造と機能を持っている。本シリーズでは以降これら特徴的なプロテオグリカンの興味ある生物学的特性についての解説が行われる予定である。グリコサミノグリカンはプロテオグリカン分子の性質に重要な機能を与えており、その化学構造はウロン酸(或いはガラクトース)とヘキソサミンからなる基本の二糖構造が通常40-100回繰り返してできる多糖で、種々の程度の硫酸化を受けることが特徴である。この基本二糖構成はコンドロイチン硫酸とデルマタン硫酸の場合(グルクロン酸 / イズロン酸 → Nアセチルガラクトサミン)、ヘパラン硫酸とヘパリンの場合には(グルクロン酸 / イズロン酸 → Nアセチルグルコサミン)、ケラタン硫酸の場合には(ガラクトース → Nアセチルグルコサミン)である。グリコサミノグリカンの硫酸化は、コンドロイチン硫酸の場合には通常規則的で各二糖あたり一個所の硫酸化を受け、ヘパラン硫酸の場合にはグリコサミノグリカン全体に不規則な分布の硫酸化を受ける。プロテオグリカンは、グリコサミノグリカンのほかにもしばしば通常の糖タンパクに見られるようなN-結合型オリゴ糖およびO-結合型オリゴ糖を持つ。


 プロテオグリカンの分子機能はおもにそのグリコサミノグリカン成分に由来した性質と、コアタンパクに由来するものに分けて考えるのが便利である。グリコサミノグリカンはその顕著な硫酸化のため強い親水性を示し溶液中で伸展した構造をとる。この性質は特に多数のグリコサミノグリカンがコアタンパクに結合した形のプロテオグリカン(典型的な分子としてアグリカン)が形成された時に強調され、溶液中で巨大な分子容積を占め、分子中に多くの水分子を保持する。最近特に注目されているもう一つのグリコサミノグリカンの際立った性質は、とりわけヘパラン硫酸およびヘパリンに見られるが、この多糖が示すいくつもの成長因子や重要な機能タンパクとの相互作用である。この相互作用はこれらタンパクの機能調節にとって重要である。コアタンパクの持つ性質としては、これも他分子との相互作用を介しての機能で、主にプロテオ グリカンが細胞外マトリックスを構成する際に重要な役割持つ。
Figure
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図の説明
典型的なプロテオグリカンの分子モデル、(a)アグリカン、(b)デコリン、(c)シンデカン1。コアタンパクのアミノ末端とカルボキシル末端がNおよびCで示してある。グリコサミノグリカンは赤い線で示してある(実線:コンドロイチン硫酸 / デルマタン硫酸
CS/ DS、破線:ヘパラン硫酸 HS、波線:ケラタン硫酸 KS)。それぞれの分子サイズがおおよそ比較できるように描かれている。シンデカン1のコアタンパク中で太線部分は細胞膜貫通部を示している。
 プロテオグリカンのもっとも代表的なものはコンドロイチン硫酸を含むアグリカン(aggrecan、図)と呼ばれる関節軟骨に存在する巨大分子であり、動物体内に存在するプロテオグリカンの大半を占める。アグリカンのコアタンパクはそのアミノ末端付近にグリコサミノグリカンの一種であるヒアルロナン(ヒアルロン酸)に特異的に結合するドメイン(ヒアルロナン結合部位)を持ち、もう一つのタンパク(リンクタンパク、link protein) とともに軟骨組織中で巨大な会合体を形成し軟骨の重要な機能である圧縮的衝撃力の吸収作用の基となっている。この分子は19世紀末にプロテオグリカン発見のきっかけになったばかりでなく、1970年代初頭におけるまでプロテオグリカン研究の中心であり、その分子構造解明に多くの情報を提供した。


 プロテオグリカンの生合成過程は通常の糖タンパク糖鎖の合成過程に加えてゴルジ装置でのグリコサミノグリカン合成が加わったもので、最も複雑な複合糖鎖合成過程といえる。これには多くの糖転移酵素、硫酸転移酵素群を必要としゴルジ装置内の複数の部位が関与していると考えられている。これら複合糖鎖合成系の生成、調節に関しても今後解明されるべき興味ある課題が多い。
References(1)Iozzo, R. V., and Murdoch, A. D.: Proteoglycans of the extracellular environment: clues from the gene and protein side offer novel perspectives in molecular diversity and function. FASEB J. 10:598-614 (1996)
(2)Yanagishita, M., and Hascall V. C.: Cell-Surface Heparan Sulfate Proteoglycans. J. Biol. Chem. 267:9451-9454 (1992)
1997年 12月 15日

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