Glycoprotein
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糖ヌクレオチド輸送体と糖鎖合成

  糖鎖は末端に単糖が付加され、伸長することによって形成される。このとき、付加反応に利用されるのは、そのままの単糖ではなく、ヌクレオチドの結合により活性化された糖供与体、糖ヌクレオチドが使われる。糖の付加反応の多くは膜で仕切られたゴルジ装置や小胞体の内腔で行われるが、糖ヌクレオチドは細胞質で(CMP-シアル酸は核で)合成される。糖ヌクレオチドは膜を透過できないため、この糖供与体を糖鎖合成の場であるこれら細胞小器官の内腔に運び込んでいるのが糖ヌクレオチド輸送体である。

 糖ヌクレオチド輸送体はゴルジ装置、小胞体の膜に存在する340〜400アミノ酸からなるN末端とC末端を膜の細胞質側に露出させた、おそらくは10回膜貫通型の膜介在性タンパク質である。そして、細胞質にプールされた糖ヌクレオチドをモノヌクレオチド(UDP糖はUMP, GDP糖はGMP, CMP糖はCMP)との対向輸送によってゴルジ装置や小胞体の内腔に運び込んでいる(図参照)。運び込まれた糖ヌクレオチドは、糖転移酵素によって糖タンパク質、糖脂質、多糖類の糖鎖合成の糖供与体として使われる。また、この輸送体は小胞体内において、グルクロン酸抱合の基質であるUDP-グルクロン酸を供給していると考えられている。糖ヌクレオチドには種々の分子種が存在するが、それぞれの糖ヌクレオチドに特異的な輸送体が存在すると考えられている(1-3)。

 この輸送体は、おそらくはホモ2量体(ダイマー)で存在しており、このホモダイマーの形成が活性に必要であることが、野生型と失活した輸送体を同時に発現させる解析から示唆されている。さらに、輸送体の細胞質側に露出するN末端とC末端領域を欠失させても、輸送活性と細胞内局在性は保持される。そして、UDP-ガラクトース輸送体の一部をCMP-シアル酸輸送体で置き換えるとUDP-ガラクトース輸送能に加え、さらにCMP-シアル酸輸送能を付与できること、逆に、CMP-シアル酸輸送体の一部をUDP-ガラクトース輸送体に置き換えることで、UDP-ガラクトース輸送能を付与できること、そしてその両者は異なる部位であることが明らかになっている(総説3参照)。

 個体発生は、成長因子のシグナル伝達系による正確な制御のもとに進行する。そして、糖ヌクレオチド輸送体fringe connectionとカップリングしたNotch 受容体の糖鎖修飾が、この制御調節のひとつとなっている(4)。ショウジョウバエのNotch 受容体は、翅の背腹境界の形成など、組織中の境界形成に関与する。そして、糖転移酵素Fringeによる糖鎖修飾の有無により、2つのリガンドDeltaとSerrateによってそれぞれ活性化され、この違いによって境界を形成する。糖ヌクレオチド輸送体fringe connection遺伝子を破壊すると、Fringeは糖供与体の供給を断たれて働くことができず、境界形成がうまく行われなくなり、翅周縁部、肢の関節、複眼の形成異常と感覚毛の増加が見られるようになる。また、線虫においても、その詳細は不明だが、糖ヌクレオチド輸送体SQV-7が陰門の形態形成に関与していることが知られている。さらに最近、小胞体に局在し、UDP-グルコースを輸送基質のひとつとする糖ヌクレオチド輸送体Hut1が、欠失株の酵母を用いた解析において、小胞体品質管理の変異体表現型を示し、糖タンパク質の小胞体内での折りたたみ過程に関与している可能性が示唆されている(5)。

 進行性の大腸癌では、細胞表面にシアリルルイスA/X糖鎖の発現が見られ、血行性転移においては、このシアリルルイスA/Xと血管内皮細胞のE-セレクチンとの結合によって血管内皮に接着、そして組織内に侵入し、転移を成立させることが知られている。これらの大腸癌では、UDP-ガラクトース輸送体の発現が亢進していること、この糖鎖の発現の低い大腸癌培養細胞にUDP-ガラクトース輸送体遺伝子を導入して活性を亢進させると、発現量とE-セレクチン発現細胞の接着量が増加することが示されており、癌転移における、UDP-ガラクトース輸送体の関与が示唆されている(6)。先天性グリコシル化異常症のひとつII型白血球接着不全症(LADII / GDCIIc)の解析によってGDP-フコース輸送体の細胞性免疫に対する関与が示されている。この患者は、低い鼻梁と長いまつげに特徴づけられる扁平な容貌と、精神運動遅延、成長障害を示し、再発性の感染症に苦しめられる。これは、この輸送体の1アミノ酸置換による変異のため糖鎖へのフコースの付加が欠損し、白血球のフコースを含む血液型関連糖鎖抗原のシアリルルイスXの発現が妨げられることによる。白血球は、血管内皮へのこの糖鎖とセレクチンの結合を介した接着とローリングができなり、細胞性免疫の不全を呈すると考えられている(7)。

 糖ヌクレオチド輸送体遺伝子の単離は、1996年になって初めて、K. lactisのUDP-N-アセチルグルコサミン輸送体、マウスのCMP-シアル酸輸送体、そしてヒトのUDP-ガラクトース輸送体でなされた(1-3)。このことによって、組換え、あるいは改変輸送体タンパク質を用いた解析、遺伝子レベルでの変異体の解析、積極的な遺伝子導入と破壊による解析が可能になった。今後、構造と活性の関係、糖ヌクレオチド輸送体の生理的役割と病気との関わりの詳細が、明らかにされると期待できる。
石田信宏
((財)東京都医学研究機構・東京都臨床医学総合研究所 生命情報)
References (1) Hirschberg CB, Robbins PW, Abeijon C: Transporters nucleotide sugars, ATP, and nucleotide sulfate in the endoplasmic reticulum and Golgi apparatus. Annu. Rev. Biochem. 67, 49-69, 1998
(2) Kawakita M, Ishida N, Miura N, Sun-Wada G-H, Yoshioka S: Nucleotide sugar transporters : elucidation of their molecular identity and its implication for future studies. J. Biochem. 123, 777-785, 1998
(3) Gerardy-Schahn R, Oelmann S, Bakker H: Nucleotide sugar transporters: Biological and functional aspects. Biochimie 83, 775-782, 2001
(4) Goto S, Taniguchi M, Muraoka M, Toyoda H, Sado Y, Kawakita M, Hayashi S: UDP-sugar transporter implicated in glycosylation and processing of Notch. Nature Cell Biol., 3, 816-822, 2001
(5) Nakanishi H, Nakayama K, Yokota A, Tachikawa H, Takahashi N, Jigami Y: Hut1 proteins identified in Saccharomyces cerevisiae and Schizosaccharomyces pombe are functional homologues involved in the protein-folding process at the endoplasmic reticulum. Yeast, 18, 543-554, 2001
(6) Kumamoto K, Goto Y, Sekikawa K, Takenoshita S, Ishida N, Kawakita M, Kannagi R: Increased expression of UDP-galactose transporter messenger RNA in human colon cancer tissues and its implication in synthesis of Thomsen-Friedenreich antigen and sialyl Lewis A/X determinants. Cancer Res., 61, 4620-4627, 2001
(7) Hirschberg CB: Golgi nucleotide sugar transport and leukocyte adhesion deficiency II. J. Clin. Invest., 108, 3-6, 2001
2002年 11月 28日

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