ゲノムやプロテオーム解析においては、定型的な解析手法が確立されており、大規模集団を対象とした全ゲノム解析や網羅的なタンパク質解析がこれまでに実施され、主要な疾患との関連も明らかになりつつある。 一方、ヒューマングライコームプロジェクトにおける糖鎖解析基盤の整備により、グライコーム解析も大規模集団を対象とした解析が可能となった。 本レビューでは、健常者または疾患群を対象としたコホート研究を通じて得られた集団規模のグライコームデータが、糖鎖科学および生命科学全体にもたらす新たな可能性と期待について紹介する。 ...and more
本誌の希少糖シリーズ「Rare Sugars」では、まず「希少糖とは」というトピックで定義・分類や自然界における希少糖の役割を説明し、原始地球における希少糖の位置付けから現代にいたるまでの希少糖の歴史を紹介した。次には、体系化された希少糖の生産戦略図「イズモリング」の考案とその進化の変遷を紹介し、希少糖自体の結晶構造に関する物理化学的特性や、生産に用いる微生物由来の酵素の特徴を概説してきた。さらに、前々回からは希少糖の用途開発に関する解説を進め、医療分野での用途開発の最前線として抗がん作用や糖尿病および肥満症への医療応用を紹介した。今回は、食品分野の用途における希少糖D-アルロースの特徴、希少糖のアンチエイジング効果、農業分野で利用する際の用途の可能性等についてそれぞれ概説する。 ...and more
近年、抗体医薬品の市場は拡大しており、抗体の機能を強化する技術として糖鎖改変が注目されている。特に、IgGのFc領域に存在するN-結合型糖鎖の構造を制御することで、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)の向上や体内動態の改善が可能となる。従来の糖鎖構造解析では、結合位置や組み合わせの情報が失われるという課題があったが、近年、エンド型グリコシダーゼを用いたIgGの糖鎖均一化技術が開発され、より厳密な糖鎖改変が実現されつつある。さらに、抗体糖鎖改変技術は、均一な構造を持つ抗体–薬物複合体(antibody-drug conjugate: ADC)の作製にも応用された。本稿では、IgGの糖鎖改変技術に関する最新の研究成果について概説する。 ...and more
高分子が形成する三次元網目構造体であるゲルは、保水性、構造柔軟性、物質保持性などさまざまな生体類似特性を有することから、ソフトコンタクトレンズ、人工筋肉、人工乳房、人工皮膚、癒着防止材、創傷治癒材、ドラッグデリバリー(薬物送達)システムにおける薬物キャリアなど、幅広い医療応用が検討されている。本稿では、多糖(ヒアルロン酸やキトサン)と合成高分子を組み合わせることによる、組織接着性や薬物徐放性を兼ね備えた多糖ゲル/ゲルシートの作製を中心に紹介する。 ...and more