キトサンは様々な生理活性を持つことが報告されている。その生理活性の中でも特に傷の治癒の促進効果は広く知られており、キトサンを主成分とした創傷被覆材が販売されるに至っている。しかし、その創傷被覆材は乾燥製材であり、ヒドロゲル型ではない。その理由は、安全性の高いキトサンのヒドロゲルを調製することが困難なためである。具体的には、キトサンからなるヒドロゲルを作製するためには、まずはキトサンを水に溶解させる必要がある。しかし、キトサンは酸性の水にしか溶解しないため、それから得られるヒドロゲルも酸性となり、傷口に貼付するには適さない。また、ヒドロゲルを調製するためには高分子水溶液中の高分子を化学架橋剤で架橋する必要があるが、化学架橋剤は毒性の高いものが多く、それを含むヒドロゲルも医療用途には適さない。本稿では筆者が開発した、化学架橋剤を含まずに凍結-融解処理またはオートクレーブ処理により調製可能であり、かつ中性であるキトサンヒドロゲルを紹介する。 ...and more
地球温暖化のみならず、海洋プラスチックごみ問題等が深刻視され、プラスチック製品を環境に優しい材料に代替する動きが加速している。木や草などバイオマス資源は、昔から地球上に存在し、自然の浄化能力内で代謝されうる「究極の環境調和性材料」といえるが、それ自身に熱可塑性がなく、プラスチックのような成形加工を行うことができない。本稿では、バイオマスを粉末化し、セルロース誘導体を混合するアプローチにより、石油系樹脂不使用でバイオマスに成形性を付与し、押出成形により三次元成形を実現する取組について紹介する。 ...and more
ヒアルロン酸 (HA) は中枢神経系の細胞外マトリックス (ECM) の中心的な構成要素である。脳においてHAは、可溶性の拡散型ECMとペリニューロナルネットのような凝縮型ECMという2つの異なるECMに存在する。HAの生理的機能はそのサイズによって大きく異なるが、これら2つのECMにおいて、HAのサイズの違いは調べられていない。最近我々は、生体試料に含まれるHAの分子量を簡便に評価する方法を確立した。この方法では、Hビオチン化HA結合タンパク質とストレプトアビジン結合磁気ビーズにより組織抽出物からHAを精製し、その後、ゲル電気泳動で分子量ごとに分離する。この方法をマウス脳のHAに適用することで、凝縮型ECMには拡散型ECMよりも高分子量のHAが含まれていることを明らかにした。また、高分子量HAと低分子量HAは異なる空間分布を示し、前者はペリニューロナルネットに限局するが、後者は脳全体に広く存在していた。さらに、凝集性のHA-アグリカン複合体を形成するには高分子量HAが必要であることを示した。本研究は、脳内でHAが形成するECMの局在性と可溶性には、HAの分子量が大きく寄与することを明らかにした。 ...and more
前立腺がんは、男性において最も罹患数の多い悪性腫瘍であり、患者数の増加に伴って治療耐性を示す悪性度の高い前立腺がん患者が増加することが問題となっている。そのため、悪性化した前立腺がんに対する診断や治療法の開発が求められている。現在、前立腺がんの診断には、前立腺特異抗原(PSA)検査が用いられるが、高確率で偽陽性を示し、患者に対して侵襲的な診断が必要になることが多い。そこで、より精度の高い診断法が求められている。筆者らは、ホルモン除去や低酸素環境下において悪性化した前立腺がん細胞におけるO-グリカンの発現とその機能の解明を行った。細胞に発現する糖鎖構造を知るために、抗体やレクチンでの検出、酵素や化学的に切り出して質量分析装置で解析する方法などが行われている。これに加えて、培養細胞に発現する糖鎖を解析する手法として糖鎖プライマー法が確立されてきた。本稿では、糖鎖プライマー法を用いたホルモン除去や低酸素環境下において悪性化した前立腺がん細胞におけるO-グリカンの発現解析およびその糖鎖の機能解析を行った成果を紹介する。 ...and more