GALECTIN
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リボヌクレアーゼ活性をもつレクチン(レクザイム)

  ウシガエルとニホンアカガエル卵から単離された二種のシアル酸結合性レクチン(cSBLとjSBL)は,多種類の癌細胞を凝集するが,正常な赤血球や線維芽細胞を凝集しない。この凝集活性はシアロ糖タンパク質やガングリオシドで阻害される。これらのSBLは,糖を含まない塩基性タンパク質で,アミノ酸残基数111,4つの分子内ジスルフィド結合で構成されている。cSBL配列の相同性は,それぞれ,jSBLと80%,ウシガエル肝臓由来のRNaseと65%,onconase(Rana pipiens 卵由来の抗腫瘍タンパク質)と53%,アンギオゲニン(血管新生を強力に誘導するタンパク質)と30%,またRNase Aと28%である。ヒト膵臓由来のRNaseの活性部位に存在するHis-12,Lys-41,His-119は,これらのSBLにも保存されており,またSBLがピリミジン塩基特異的なRNase活性を有することから,SBLは構造的にも機能的にも膵臓由来のRNaseスーパーファミリーに属している。それ故,我々はSBLを"レクザイム"と呼んでいる。


 SBLには細胞毒性があり,in vitroでP388やL1210白血病細胞,またin vivoでSarcoma 180やEhrlich腹水細胞のような癌細胞の増殖を抑制する。cSBLによる癌細胞の増殖阻害は,細胞をシアリダーゼで前処理することにより低下する。cSBLは,P388細胞膜上に発現しているシアロ糖タンパク質レセプターのO-グリコシドオリゴ糖鎖に結合して細胞を凝集させ,そしてレセプター仲介エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。取り込まれたcSBLはRNaseとして作用し,RNA分解を引き起こし,癌細胞の細胞死を誘導する。P388細胞起源の取り込み障害ミュータントであるcSBL耐性クローンRC150は,cSBLの取り込みに関わるレセプターを発現していないので,RC150細胞中にはcSBLは取り込まれない。 O-結合糖鎖の伸長阻害剤であるbenzyl-GalNAcでP388細胞を処理することにより,cSBL依存性の細胞死は抑制される。従って,この過程の最初のステップ,すなわちcSBLのシアロ糖タンパク質レセプターへの結合とその取り込みは,cSBLの抗腫瘍効果の発現に重要である。


 cSBLはP388細胞(RC150細胞ではなく)に対して,核の凝縮や微絨毛の消失のようなアポトーシス様の形態変化を引き起こす。P388細胞はFas抗原とTNFレセプターを発現していないが,cSBL処理によりFas抗原とTNFレセプターの発現が増加する。 cSBL処理P388細胞(RC150細胞とbenzyl-GalNAc処理細胞ではなく)はアポトーシスに特徴的な変化を示す。すなわち,DNA断片化,細胞表面へのFITC-annexin Vの結合,death factor(Fas リガンド,TNF)で誘導されるシグナル伝達経路に関連するカスパーゼ-3 と-8の活性化などが認められる。カスパーゼ-8の活性化はcSBL処理後3時間をピークに観察される。Ac-DEVD-CHO(カスパーゼ-3 阻害剤 )あるいはZ-IETD-fmk(カスパーゼ-8 阻害剤)[Ac-YVAD-CHO(カスパーゼ-1 阻害剤)ではなく] の添加は,cSBLの増殖抑制効果を阻害する。 cSBLをウシ顎下腺シアロムチンにより前処理することにより,cSBLで誘導されるカスパーゼ-3 の活性化が阻害される。cSBL感受性P388細胞へのcSBLの結合は,RNAばかりでなくDNAの分解促進に,またアポトーシスの誘導に関連している。cSBLによって誘導されるカスパーゼ-3 依存性のアポトーシスは,Fas抗原あるいはTNFレセプター依存性の伝達経路とcSBLのシアロ糖タンパク質レセプターへの結合との連関について興味深い問題を提起している。


Fig : Mechanism of leczyme-induced cell death



仁田一雄(東北薬科大学・附属癌研究所)
References (1) Nitta,K et.al: Catalytic lectin (leczyme) from bullfrog (Rana catesbeiana) eggs: Mechanism of tumoricidal activity. Int. J. Oncol. 9, 19-23, 1996
(2) Nitta,K et.al: Characterization of a Rana catesbeiana lectin-resistant mutant of leukemia P388 cells. Cancer Res. 54, 928-934, 1994
(3) Nitta,K et.al: Inhibition of cell proliferation by Rana catesbeiana and Rana japonica lectins belonging to the ribonuclease superfamily. Cancer Res. 54, 920-927, 1994
(4) Nitta,K et.al: Ribonuclease activity of sialic acid-binding lectin from Rana catesbeiana eggs. Glycobiology 3, 37-45, 1993
1999年 6月 15日

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