Proteoglycan
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アグリカンとバーシカン

  アグリカン(aggrecan)は分子量約2500kDaの軟骨組織に存在する代表的な大型のケラタン硫酸/コンドロイチン硫酸プロテオグリカンで、軟骨以外にも脳、大動脈、腱などの比較的限局した組織分布を示す。アグリカンのコアタンパク質は分子量210-250kDaでヒアルロン酸結合能を持ち、リンクタンパク(link protein)とともにヒアルロン酸と巨大な複合体を形成する。そして、そのコアタンパク質に結合した数多く(100本以上)のグリコサミノグリカン鎖によって、高度に水和したゲル体を形成し、それが空間を充たすことによって軟骨組織の力学的強度を生み出している。


 PG-M/バーシカン(versican)は比較的広範な組織分布を示す分子量1000kDa以上の大型のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンで、グリコサミノグリカン鎖は12〜16本とアグリカンに比べ少ないが、数多くのN-、O-結合型糖鎖が存在する。そのコアタンパク質は分子量〜500kDaでアグリカン同様、ヒアルロン酸結合能を持つ。


 この両者のコアタンパク質には構造上の類似性がある。図に示すように、それぞれのコアタンパク質はマルチドメイン構造よりなり、アミノ末端近傍のリンクタンパク様構造からなるヒアルロン酸結合領域、中央部分のセリン−グリシン繰り返し構造を含むグリコサミノグリカン結合領域に加え、カルボキシル末端部分には、1つ又は2つのEGF(上皮増殖因子)様繰り返し構造、C型レクチン様構造、補体制御タンパク様構造からなるセレクチン様領域が存在する。実際にこの両者はアミノ末端部分のヒアルロン酸結合領域でヒアルロン酸に結合し、カルボキシル末端部分のセレクチン様領域でガラクトース、フコースを含むいろいろな糖鎖にカルシウムイオン依存的に結合する。PG-M/バーシカンはグリコサミノグリカン結合領域をコードする二つのエキソンが選択的スプライシングの制御を受け、その結果、グリコサミノグリカン結合領域の長さが異なり、糖鎖の本数が異なる4種類のスプライシングバリアントの転写産物が存在する。アグリカン、PG-M/バーシカンに、脳で見つかったニューロカン(neurocan)、ブレビカン(brevican)を加え、アグリカンファミリー(レクチカン(lectican)ファミリー、ヒアレクタン(hyalectan)ファミリー)とよばれる。このファミリーに分類されるプロテオグリカンはアミノ末端、カルボキシル末端部分でマトリックスまたは細胞表面のヒアルロン酸、オリゴ糖鎖にそれぞれ結合することによって、高次の細胞外ネットワークを形成し、それぞれの分子に固有の長さ、本数、硫酸化度をもったコンドロイチン硫酸鎖をそのネットワークの中に提示していると考えられている。
図
図の説明
アグリカンとPG-M/バーシカンの構造モデル図
 各モデルの下にアグリカン、PG-M/バーシカンのいろいろな構造単位の構成を模式的に示す。HABR:ヒアルロン酸結合領域;GAG:グリコサミノグリカン結合領域;EGF:上皮増殖因子様繰り返し構造;LEC:C型レクチン様構造;C:補体制御タンパク様構造
矢田 俊量(愛知医科大学・分子医科学研究所)
References(1) Wight, T N, Heinegard, D K, Hascall, V C: Proteoglycans: structure and function. In Hay, E D, ed, Cell Biology of Extracellular Matrix, 2nd edn, Prenum Press, NY, pp.45-78, 1991
(2) Iozzo, RV, Murdoch, A D: Proteoglycans of the extracellular environment: clues from the gene and protein side offer novel perspectives in molecular diversity and function. FASEB J. 10, 598-614, 1996
1998年 3月 15日

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