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オリゴ糖によるシグナル伝達、遺伝子発現調節

 特定の構造のオリゴ糖は植物細胞に分子シグナルとして作用し、特定の遺伝子発現を誘導する。遺伝子発現より時間的に早い反応として細胞膜脱分極、イオンフラックス、活性酸素生成等が観察されている。

 細胞膜の脱分極は、アルファルファ根粒菌、Schinorhizobium melilotiが生産するnod factorを処理したアルファルファの根の表皮細胞、及びキチンオリゴ糖を処理したイネ培養細胞において、それぞれ処理後数秒以内に観察されるもっとも早い反応であるが、これがどのようなイオンチャンネルの活性によって引き起こされるのか、またそれ以降の反応との関連性についてはよくわかっていない。

 キチンオリゴ糖(DP=4,5)を処理したトマト培養細胞、ヘプタグルコシドを処理したダイズ培養細胞等多くの実験系でカルシウムイオン、プロトンの流入、カリウムイオン、塩素イオンの流出が報告されている。特に、種々のカルシウムチャンネル阻害剤の存在下や培地からカルシウムを除去することで以後の反応が起こらなくなることから、カルシウムイオンの流入による細胞質カルシウム濃度の上昇はオリゴ糖シグナル伝達過程に必須のものと考えられている。オリゴガラクツロン酸を処理したタバコ培養細胞ではプロトンの流入による細胞質のpH低下は一過的であるが、ダイズ疫病菌細胞壁抽出物を処理すると連続的になる。しかし、ダイズ培養細胞では同じダイズ疫病菌細胞壁抽出物を処理しても細胞質pHは変化しない。また、上述のnod factorを処理したアルファルファの根の細胞ではプロトンの流出によって細胞質のpHが上昇する。

 イネ培養細胞をキチンオリゴ糖(DP=7,8)で処理するとプロトンの流入、カリウムイオン、塩素イオンの流出、活性酸素生成が観察され、さらに数分以内にmRNAが増加する遺伝子の発現が認められる。また、カルシウムを含まない培地中では以後の反応が起きなくなることからカルシウムイオンの流入も起きるものと推測されている。この系ではプロトンの流入による細胞質の一過的なpH低下がこれらの初期遺伝子群の発現誘導の引き金であること、このような遺伝子発現は蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤、カリクリンA処理によっても誘導されること、カリクリンAが細胞質酸性化を引き起こすこと、さらに蛋白質リン酸化酵素阻害剤、k-252aがキチンオリゴ糖による細胞質酸性化、遺伝子発現の両方を阻害することから、エリシターの認識→蛋白質リン酸化・脱リン酸化反応→細胞質pH低下→初期遺伝子群発現というシグナル経路が提唱されている。

 エリシター活性を有するオリゴ糖で細胞を処理すると活性酸素の生成が観察される。これら活性酸素は活性酸素消去系遺伝子の発現を誘導すると共に、細胞壁蛋白質のクロスリンク、リグニン生成の原材料等として、細胞壁を強化するために用いられ、また抗菌性物質生合成のシグナルとなっているとされている。

 k-252aやスタウロスポリンの様な蛋白質リン酸化酵素阻害剤を前処理すると、オリゴ糖による活性酸素生成や遺伝子発現が観察されなくなること、逆にカリクリンAやカンタリジンのような蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤を処理するとオリゴ糖なしでもこれらの現象が観察されることから、オリゴ糖シグナル伝達過程において何らかの蛋白質リン酸化・脱リン酸化のサイクルが重要な関与をしているものと考えられている。また、いくつかの実験系においてはオリゴ糖処理直後に一過的なMAPキナーゼの活性化が観察されている。
Figure 1.
南 栄一 (農水省農業生物資源研究所・生物工学部)
References (1) RA, Dixon, MJ, Harrison, CJ, Lamb : Early events in the activation of plant defense responses. Annu. Rev. of Phytopathol. 32, 479-501, 1994
(2) CA, Ryan, EE, Farmer : Oligosaccharide signals in plants: A current assessment. Annu. Rev. Plant Physiol. Mol. Bio. 42, 651-674, 1992
(3) J, Ebel, A, Mithofer : Early events in the elicitation of plant defense. Planta, l206, 335-348, 1998
2000年 6月 15日

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