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Branching Enzyme

 スターチブランチングエンザイム(SBE)は、アミロース(AM)からアミロペクチン(AP)を合成する酵素であり、別名「枝作り酵素」とも呼ばれている。つまりα-1,4結合を切断し、α-1,6結合で別の場所に転移する反応を触媒する。当初はAPの枝作りに関して、AMを分解する活性と転移活性がそれぞれ別の酵素に由来すると考えられていたが、Borovskyら(1975)によってジャガイモから精製した酵素で、これら活性が1つの酵素に帰属することが明らかにされた。SBEは一次構造上の相違から2種類のアイソザイム(ファミリーA・ファミリーB)に大別される。アイソザイム間の性質の違いは、その起源によっても大きく異なるが、共通する性質はファミリーBの酵素はファミリーAのものより転移鎖長が長いということである。また、生成物のAPをヨウ素染色すると、ファミリーAのものが青みがかった色を、ファミリーBのものは赤みがかった色を呈する。そのほか各ファミリーの酵素は、基質親和性、基質の好み、エフェクター物質に対する影響等が異なり、生体内においてそれぞれ異なった調節を受け制御されていると考えられる。
 その他、興味深い性質として、各アイソザイムの反応温度に対する挙動があげられる。インゲンマメのアイソザイム(KBE1、KBE3)は、ともに40℃近くまで十分に安定であるにも関わらず、至適温度は25〜30℃付近に存在することから、温度変化における基質の構造変化が酵素活性に強く影響していると考えられる。低温においてSBEの転移鎖長は減少し、アミロースのらせん構造の変化がこのことに関連していると考えられる。また、両酵素の活性比は、至適温度周辺で大きく変化する。ほんの数℃の違いが酵素間の活性のバランスを変化させ、作られるAPの構造を変化させることも考えられる。

 イネ、トウモロコシにおいては、ファミリーAの酵素を欠損した株が存在し、Amylose-extender (ae) 変異体と呼ばれている。この変異体が蓄積する澱粉は、粘り気がなくアミロース様であることが知られている。一方、アンチセンスRNAを用いた実験は行われているが、ファミリーBあるいは両ファミリーの酵素を欠損した変異体は、現在のところ報告されていない。

 グリコーゲンを蓄積する生物では、グリコーゲンブランチングエンザイムが1種類存在するが、大部分の植物は両ファミリーに属するSBEが複数個存在している。このことからも、APに特有の整然としたクラスター構造には、両ファミリーのSBEの協同作用が必須であることが予想される。しかしながら、澱粉合成における両酵素の関わり合いは、いまだ明確にされていない。

 余談になるが、メンデルの遺伝の法則に登場する"しわのエンドウ豆"は、ファミリーAの酵素遺伝子上にトランスポゾンが入り込み、酵素が不活性化した結果である。
野崎功一(信州大学・工学部)
濱田茂樹(北海道大学・大学院・農学研究科)
References (1) D, Borvsky et al., Eur. J. Biochem. 59, 615, 1975
(2) K, Mizuno et al., J. Biochem.112, 643-651, 1992
(3) R A, Burton et al., Plant J., 7, 3-15, 1995
(4) M, Shure et al., Cell 35, 225-233, 1983
2000年 12月 15日

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