Apr. 15, 2001

型糖鎖の転移異常(2001 Vol.05, A5)

大倉 隆司 / 山下 克子

氏名:大倉 隆司
佐々木研究所・生化学部

氏名:山下 克子
佐々木研究所・生化学部

糖タンパク質N型糖鎖は生物の受精、発生、免疫、細胞内輸送、老化、癌などに関与していることから、その糖鎖異常は多様な病態を引き起こす。中でも、N型糖鎖の転移不全は先天的には糖タンパク質糖鎖不全症候群(Carbohydrate deficient glycoprotein syndrome, 後にCongenital disorders of glycosylation,CDGに統一される)1、後天的にはアルコール依存症2において認められる。一方、アルツハイマー病ではタウタンパク質に異常な糖鎖転移増加が報告されている3

CDGは1980年に初めて報告された常染色体劣性遺伝性疾患であり、小脳形成不全や肝障害、末梢神経障害など多面的な病態を呈する。生化学的には、様々な血清糖タンパク質でN型糖鎖の異常によって等電点の高い分子種が出現することが特徴である。CDGはいくつかに分類され、I 型はN型糖鎖転移不全が原因で引き起こされる症候群であり、II 型はN-アセチルグルコサミン転移酵素 II の欠損によるプロセシング異常が原因で引き起こされる疾患である。

さらに、I 型はいくつかの異なる酵素欠損によるものに分類され、最も多い例はPhosphomannomutase欠損によるものである(タイプ I a)4が、他にもPhosphomannose isomerase欠損 (タイプ I b)5やGlucosyltransferase欠損(タイプ I c)glycolipid a-mannosyltransferase(タイプ I d)7、Dol-P-Man synthase(タイプ I e)8およびドリコール生合成低下の例も報告されている。いずれの場合でも結果として、Glc3Man9GlcNAc2-PP-dolichol量が低下し、ポリペプチドへのN型糖鎖転移不全をひき起こす。N型糖鎖の生合成前駆体である糖結合ドリコール中間体の合成過程が多段階であることから、今後も様々な酵素の欠損に起因する糖鎖転移不全症の発見が予想される。CDG I 型については現在までにトランスフェリンやアンチトロンビンIII などの血清糖タンパク質、脊髄液糖タンパク質であるベータートレースや赤血球膜糖タンパク質におけるN型糖鎖転移不全が報告されているが、CDG I 型は全身的な症状を示すことからあらゆる臓器の細胞において糖鎖転移不全が起こっていると考えられる。N型糖鎖の欠損による生化学的影響としては、ツニカマイシン処理や部位特異的変異で実験的に糖タンパク質のN型糖鎖を欠損させることにより、糖タンパク質性ホルモンの機能喪失、各種受容体の細胞表面への発現不全、分泌性糖タンパク質の分泌不全、リソゾーム酵素の輸送不全などが起こることがこれまで報告されている。CDG I 型の患者は出生直後に重篤な症状に陥るがこの時期を脱すると病状も比較的安定し、50才代の患者も報告されている。治療法は未だ無いが、比較的症状の軽いCDGタイプ I b型ではマンノースの経口投与が症状の改善に有効である。

一方、長期大量飲酒によるアルコール依存症患者にも血清糖タンパク質の糖鎖欠損が認められる。特に糖鎖欠損トランスフェリン(Carbohydrate deficient transferrin,CDT)はアルコール依存症のマーカーとして用いられ、このCDT は禁酒により消失する。しかし、糖鎖欠損の原因については明らかにされていない。

N型糖鎖はポリペプチド中の全ての糖鎖結合可能部位(-Asn-X-Ser又はThr-)に結合する訳ではなく、おそらく立体障害により結合していない部位も多く認められる。この様な本来結合していない個所にも糖鎖が転移する過転移がアルツハイマー病のタウタンパク質で報告されている3。原因は不明であるが、二次的な膜の異常か、シャペロン機能の異常による可能性がある。

fig1

References
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