Aug 03, 2026
望月 秀雄
氏名:望月 秀雄
https://orcid.org/0009-0003-1051-630X
1983年に甲南大学理学部を卒業。1990年に金沢大学大学院博士課程を修了。理学博士。1990年に生化学工業株式会社に入社し、2025年に同社を退社。2002年から2004年まで、愛知医科大学分子医科学研究所に勤務し、生涯の師匠である木全弘治先生に師事。2003年にヘパラン硫酸の4硫酸化2糖構造を報告して以来、20年以上にわたり3Sだけを見続けてきた。
1. はじめに
ヘパラン硫酸(HS)は、長い直鎖状の糖鎖であり、ヒドラからヒトに至るほぼすべての動物の細胞表面と細胞外マトリックス内で、プロテオグリカンの構成成分として存在している1。HSは、成長因子、形態形成因子、サイトカイン、受容体、酵素、細胞外マトリックスなどの多種多様な機能性タンパク質と結合して、多彩な生理機能を調節している2。また、一部の病原体は、侵入するための受容体として、宿主細胞表面のHSを利用している3。HSの構造は複雑であり、高密度かつ不均一に硫酸化された領域と、ほとんど硫酸基を持たない領域が混在している。個々の機能性タンパク質に対するHSの結合特異性は、硫酸化領域内における特定の硫酸化パターンに依存すると考えられている4。
2. ヘパラン硫酸の生合成
細胞が生み出すHSの構造的多様性は、その生合成メカニズムに依存している。生合成は、図 1に示す反応経路に従い、ゴルジ装置内に局在する酵素によって触媒される。一部の反応では、括弧内に示した複数のアイソフォームが存在し、それらは修飾部位の周辺構造に対して異なる特異性を持っている。生合成は、コアタンパク質のセリン残基に結合したGlcA-Gal-Gal-Xyl- の4糖に対して、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)とグルクロン酸(GlcA)を交互に付加することで始まり、-GlcA-β1,4-GlcNAc-α1,4-の繰り返し構造が作られる。この2糖単位の繰り返しは、数十単位から200単位以上に及ぶ。続いて、一部領域のGlcNAc残基が、N-脱アセチル化とN-硫酸化を受けて、硫酸化領域の基礎が作られる。次に、GlcA残基がイズロン酸(IdoA)残基へと異性化される。IdoA(まれにGlcA)残基は2-O-硫酸化を受け、グルコサミン残基は6-O-硫酸化を受ける。さらに、まれではあるが、機能的に重要な修飾として、グルコサミン残基の3-O-硫酸化が起こる。HS合成酵素群は、ゴルジ装置内でGAGosomeと呼ばれる集合体を形成しており、酵素タンパク質間の相互作用が生合成を調節すると考えられている。生合成により12種類の2糖硫酸化パターンが生じ、それらを直線的に配置した硫酸化領域内での組み合わせは膨大な数となる。この組み合わせにより、個々の機能性タンパク質に対する特異的な結合構造が可能になる。特に、希少な2糖単位は、結合構造の特異性を高める構成要素として重要である。
図 1. ヘパラン硫酸の生合成経路
括弧内は、各修飾反応を触媒する酵素を示す。赤文字または赤い丸印は硫酸基を示している。Serはコアタンパク質中のセリン残基を示す。
3. ヘパラン硫酸3-O-硫酸転移酵素
上記の観点から、3-O-硫酸化(3S)構造の機能解明は重要な研究分野となっている5。HSを構成する全2糖の中で、3S構造を持つものは通常2%未満である。しかし、ヒトを含む哺乳類は、この希少な修飾反応を触媒する酵素、すなわち、ヘパラン硫酸3-O-硫酸転移酵素(HS3ST)のアイソフォーム遺伝子を7つ持っている。多様な周辺構造を識別して、特定のグルコサミン残基を3-O-硫酸化するためには、特異性が異なる複数のアイソフォームを獲得する必要があったと考えられる。図 2は、それらアイソフォームの相同性を解析した結果である。HS3STのC末端領域は、触媒部位を含む球状ドメインを形成しており、すべてのアイソフォーム間で高い相同性を示している(青文字)。対照的に、ステム領域と呼ばれるN末端領域では相同性が認められない。この領域には、ゴルジ内膜に酵素を係留する膜貫通部位(オレンジ色の文字)が含まれている。HS3ST1だけはこの部位を欠いており、他のタンパク質との相互作用によって、ゴルジ装置内に局在している。ステム領域が持つ機能については、まだ明らかになっていない。
図 2. HS3STアイソフォームのアミノ酸配列
7つのヒトHS3STアイソフォーム(HS3ST1, NM005114; HS3ST2, NM006043; HS3ST3A, NM006042; HS3ST3B, NM006041; HS3ST4, NM006040; HS3ST5, NM153612; HS3ST6, NM001009606)のアミノ酸配列をClustalWを使って解析した。濃い青色のアミノ酸は、すべてのアイソフォームで同一である。薄い青色のアミノ酸は、少なくとも5つの配列で同じである。オレンジ色のアミノ酸は、推定された膜貫通部位を示している。
図 3は、各種ヒト臓器におけるHS3STアイソフォーム遺伝子の発現レベルを示している。アイソフォームの発現パターンは、臓器間で顕著な違いを示しており、各臓器の機能に必要な3S構造に違いがあることを示唆している。特に脳では、HS3ST2、HS3ST4、およびHS3ST5が特異的に発現しており、これらのアイソフォームによって作られる3S構造が神経機能の調節に関与している可能性がある。
図 3. ヒト臓器におけるHS3STアイソフォームの発現レベル
ヒト臓器から調製したcDNAに含まれる各アイソフォームの転写産物を、リアルタイムPCRで定量した結果である。GAPDHを内因性コントロールとして使用し、各臓器の発現レベルを補正した。HS3ST3は、HS3ST3AとHS3ST3Bの合計量を示している。J Biol Chem. 283, 31237より改変。
4. 3-O-硫酸化ヘパラン硫酸
3S構造に関する研究は比較的長い歴史を持っており、その起源は1980年に遡る。当時、Lindahlらによって初めて、ヘパリンの抗トロンビン(AT)結合構造の中に3Sグルコサミン残基が同定された6。ヘパリンは、高度に硫酸化された特殊なHSで、肥満細胞によって合成される。医学的な重要性から、AT結合性3S構造については徹底的な研究が行われている。図 4に示した5糖は、AT結合に必要な最小構造であり、中央の3-O-硫酸基を除去すると結合活性はほぼ失われる7。このAT結合性3S構造は、構造-機能相関が明確に示されている唯一の例である8。AT結合構造を合成する酵素(HS3ST1)は、HS3ST遺伝子ファミリーの最初の酵素として精製・クローニングされた9,10。HS3ST1がその生理機能に基づいて同定されたのに対し、他の6つのアイソフォームは、HS3ST1遺伝子との相同性に基づいて、DNAデータベースの中から同定された11-13。これらの遺伝子もすべてクローニングされており、in vitroでその反応特異性が調べられている。興味深いことに、HS3ST1とは異なり、5つのアイソフォーム(HS3ST2、HS3ST3A、HS3ST3B、HS3ST4、HS3ST6)はAT結合性3S構造を作らない。HS3ST5は、AT結合性と非AT結合性の両方の3S構造を作る。3S構造は、ヘパラン硫酸のさまざまな生理機能において重要な役割を果たしていると予測されるが、抗凝固作用以外の生理活性に関する報告は限られている。生体試料に含まれる希少な3S構造の解析は大きな課題であり、この研究分野の進展を妨げている。しかし、HS3ST遺伝子の発現解析や合成3S-HSを用いた研究から、複数の生理現象において3S構造が重要な役割を果たしていることが示唆されている。例えば、HS3ST2によって硫酸化されたヘパラン硫酸は、セマフォリン誘導性の成長円錐崩壊を活性化することが報告されている14。線虫の神経系では、HS3ST遺伝子が神経突起の分岐を調節している15。ショウジョウバエのHS3STB遺伝子の発現を阻害すると、Notchシグナル経路に異常が生じる16。HS3ST3遺伝子の発現は、マウスの唾液腺の形態形成に不可欠である17。HS3ST3A/HS3ST3B二重ノックアウトマウスでは、尿管重複の発生率が有意に上昇することが報告されている18。また、概日リズムを制御するラットの松果体では、HS3ST2が昼間のみに発現している19。
図 4. ヘパリンのAT結合活性に必須な5糖構造
5. ヘパラン硫酸の組成分析
HSの組成分析には、ヘパリンリアーゼが使われている。硫酸化構造に対して特異性が異なる3種類のHS分解酵素(ヘパリンリアーゼ Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)が、Pedobacter heparinus または Bacteroides eggerthii から単離されており、市販品として入手可能である。この3種類の混合物を使用することで、1つの例外を除き、HS鎖を不飽和(∆)2糖へとほぼ完全に消化することができる。AT結合活性で重要な役割を果たすGlcA-GlcNS3S±6Sの非還元端側のグルコサミニド結合は、リアーゼ消化に抵抗性を示し、結果として∆4糖が生じる20。それ以外の3S構造は、リアーゼ抵抗性を示さず、∆2糖にまで消化される21。リアーゼ反応によって、GlcAまたはIdoA残基のC4-C5間に2重結合が導入され、4,5-不飽和ウロン酸(∆UA)が生じる。図 5は、リアーゼ消化によって生じる13種類の不飽和糖を示している。これらの消化産物をHPLCで分離・定量することで、HSの構造組成を決定することができる。“2糖分析”として知られるこの方法は、長年にわたって広く用いられてきたが、8種類の非3S-2糖構造の測定に限られていた。これは、HS中に存在するAT結合構造以外の3S構造が明確に同定されておらず、3S構造の標準品も入手困難であったことが原因である。
図 5. ヘパラン硫酸の13成分
リアーゼ反応によって生じるΔ2糖とΔ4糖を示す。赤字の3Sは3-O-硫酸基を、赤色の丸印はその他の硫酸基を示している。ΔUA-GlcNAcとΔUA2S-GlcNS6S3Sについては、略図の右側に構造式を示した。
6. ヘパラン硫酸の3-O-硫酸化成分
以前に我々は、HS3STアイソフォームの反応生成物を解析して、リアーゼ消化物として5つの3S成分を同定した22。そのうち3つは2糖であり、構造はそれぞれ、∆UA-GlcNS6S3S、∆UA2S-GlcNS3S、および∆UA2S-GlcNS6S3Sである21。残り2つはリアーゼ耐性の4糖で、構造は ∆UA-GlcNAc6S-GlcA-GlcNS3S(Tetra-1)と∆UA-GlcNAc6S-GlcA-GlcNS6S3S(Tetra-2)である23。図 6の円グラフは、HS(外側)またはヘパリン(内側)を基質として、各アイソフォームの反応によって生じた3S成分の生成比率を示している。HS3ST1の場合、2種類の4糖が主な反応生成物であるのに対して、HS3ST2、HS3ST3、HS3ST4による反応では、4糖はほとんど生成されず、主な反応生成物は、∆UA2S-GlcNS3Sと∆UA2S-GlcNS6S3Sであった。なお、HS3ST3AとHS3ST3Bは、触媒ドメインのアミノ酸配列が同一であるため、反応特異性も同じである。他のアイソフォームとは異なり、HS3ST5は2糖と4糖の両方を生成し、さらに、2つの基質に対する特異性も顕著に異なる。HS3ST6は、本検討時点で報告されていなかったため、我々の結果には含まれていない。その後の報告では、HS3ST6はAT結合構造を生成せず、HS3ST3と同様の反応特異性を持つことが示されている13。
図 6. HS3STアイソフォームの反応特異性
HS(外側)またはヘパリン(内側)を基質として、各アイソフォームによる反応生成物を解析した。円グラフは、酵素反応によって生じた3S成分の生成比率を示している。J Biol Chem. 283, 31237より改変。
7. 3-O-硫酸化成分の定量分析
次の段階として、5つの3S成分を含む全13成分の定量法を確立することを試みた24。この目的のために、逆相イオンペアHPLCとポストカラム蛍光標識法を組み合わせた分析系を採用した25。豊田らによって確立されたこの方法は、リアーゼ反応によって生じる還元末端を特異的に高感度で検出できるため、3S構造のような微量成分の測定に適している。HPLCの分離条件を再検討した結果、13成分すべてをベースランで分離できる条件を得た。さらに、既知量の13成分からなるHS標準品(HS13)を調製した23。HS13をヘパリンリアーゼで消化することで、13成分の標準混合物が得られる(図 7A)。
図 7. ヘパラン硫酸の組成分析
3種類のヘパリンリアーゼでHSを消化した後、逆相イオンペアHPLCで分離し、ポストカラム蛍光標識法で検出した。AとBのクロマトグラムは、それぞれ標準品のHS13とラット大脳のHSを分析した結果である。各成分の番号は図 5を参照。*印は3S成分を示す。Aの括弧内は、HS13を構成する各成分の含有量(nmol/mg)を示している。Bの挿入図は、同じ横軸スケールで縦軸を20倍に拡大したものである。Glycobiology. 35, cwaf068より改変。
続いて、さまざまなラットの臓器から抽出したHSを使って、組成分析をおこなった23。異なる動物臓器に由来するHSの組成に違いがあることは、これまでも複数報告されているが、3S構造の組成を比較した報告はなかった。図 7Bは、代表的なクロマトグラムとして、大脳HSの分析結果を示している。図 8は、13種類の臓器を使って測定した3S成分の組成をまとめた結果である。興味深いことに、各3S成分はそれぞれ異なる臓器分布を示しており、臓器特異的な機能と3S構造との間に関連性があることを示唆している。ただし、臓器はさまざまな種類の組織で構成されており、さらに、組織は異なる機能を持つ細胞の集合体である。したがって、臓器内の各生理機能に関与する3S構造を理解するためには、個々の組織や細胞における3S構造の解析が、今後の課題となる。
図 8. 3S成分の臓器分布
13種類のラット臓器から抽出したHSを使って組成分析をおこなった。棒グラフで示した3S成分含量は、3回の独立した実験から得られた平均値である。Glycobiology. 35, cwaf068より改変。
一例として、我々は以前、培養細胞のHSを解析したことがある24。マウス胚性癌細胞P19は、レチノイン酸の刺激によって神経細胞に分化する(図 9A)。図 9Bのクロマトグラムは、未分化(青色)および分化後(赤色)のP19細胞から抽出したHSを分析した結果である。分化した神経細胞でのみ、∆UA2S-GlcNS3Sと∆UA2S-GlcNS6S3Sの顕著なピークが検出された23。
図 9. P19細胞の神経分化に伴う3S成分の変化
マウス胚性癌細胞P19(A上)は、レチノイン酸による刺激で神経細胞(A下)に分化する。スケールバーは100µm。Bの青色と赤色のクロマトグラムは、それぞれ未分化のP19細胞と分化した神経細胞から抽出したHSの分析結果である。挿入図は、同じ横軸スケールで縦軸を拡大したものである。各成分の番号は図 5を参照。*印は3S成分を示す。J Biol Chem. 296, 100115より改変。
8. 4硫酸化2糖単位
我々は、4つの硫酸化部位すべてが修飾された2糖単位(図 10)を、天然のHSから初めて検出した21。さらに、この2糖単位が、非AT結合性3S構造を作るHS3STアイソフォームの主要な反応産物であることも確認した。その機能は未だ解明されていないが、最も高度に硫酸化されたこの構造は、特定の生理活性を持つと推測される。この単位を多く含む肝臓と脾臓は、特に注目すべき臓器である。
図 10. ∆UA2S-GlcNS6S3S
天然HSから検出された最も硫酸化度が高い2糖構造。
9. おわりに
数多くの研究により、HSと機能的に結合する少なくとも数百種類のタンパク質が報告されている。その一方で、HSの結合構造に関する研究はほとんど進展していない。HSの複雑かつ不均一な構造を解析できる方法が確立されていないため、研究の進展が妨げられている。さらに、3S構造に関する研究の遅れも一因と考えられる。3S構造に関する知見が不足していることから、これまでの多くの研究は、その関与を考慮せずに進められてきた。その結果、HSの構造-機能相関が不明瞭になっている可能性がある。したがって、著者は、HSの既知の生理活性における3S構造の潜在的な関与を再検討する必要があると考えている。
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