受精は基本的には種特異的に行なわれる。例えば、ヒトの精子はマウスやハムスターの卵には結合しない。これは卵透明帯糖タンパク質上の糖鎖を認識して結合する場合の特異性の違いによるものと考えられている。最近、発生工学的方法によってマウスZP3の代わりにヒトのZP3を発現させたマウスが作製され、この卵にはヒトの精子は結合できないが、マウスの精子は結合できることが示され、種特異的な受精における卵透明帯糖タンパク質の糖鎖構造の重要性が改めて指摘されている。精子受容活性を担う糖鎖に関しては、主にマウスの系を中心に研究が進められ、2つの説が提唱されてきた。第一は、α-Gal残基を含むO結合型糖鎖を認識する反応の介在を示すWassarman説で、このような糖鎖と結合するタンパク貭として精子側のsp56が示唆されてきた。しかし、α-ガラクトース転移酵素欠損マウスが受精能を有すること、sp56が精子の細胞表面には露出していないこと等、この考えに矛盾する事実も報告されている。第二は、精子表面のβ-ガラクトース転移酵素が卵側の GlcNAc を非還元末端に持つO結合型糖鎖を認識して結合するというShur 説である。最近、β-Gal転移酵素 I欠損マウスが作製されたが、このマウスの精子は in vitroでのZP3への結合能が野生型の30-50%に減少し、またZP3による先体反応の誘導は欠如しているにもかかわらず、 in vivoでは正常な受精能を有するという。また、上記の説とは異なり、卵側糖鎖のβ-Gal残基を認識する反応の重要性を示す報告もあり、最も研究されているマウスの系ですら精子ー卵間の糖鎖認識機構は依然として明確にはなっていない。
Wassarman, PM : Profile of a mammalian sperm receptor. Development.108, 1-17, 1990
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Shur, BD: Cell surface galactosyltransferase : current issues. Glycoconjugate J. 15, 537-548, 1998
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Mori, E, Mori, T, Takasaki, S : Mouse sperm bind to β-galactose residues on egg zona pellucida and asialofetuin-coupled beads. Biochem. Biophys. Res. Commun. 238, 95-99, 1997