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糖鎖−タンパク質相互作用解析

  糖鎖−タンパク質相互作用は、通常、リガンドタンパク質または複合糖質を放射性同位元素や酵素で標識して解析される。標識剤を必要としない方法としては、表面プラズモン共鳴法(SPR)、エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS)、NMRなどが利用されている。最近では、ランタノイド錯体標識糖鎖を用いた時間分解蛍光測定法が、簡便で高感度な解析法として利用されるようになってきた。

時間分解蛍光測定法 (Time-resolved fluorometry)

 ユウロピウム(Eu)やサマリウム(Sm)などのランタノイドは、蛍光寿命が長く、ストークスシフトが長いという特徴的な強い蛍光を発する錯体を形成することが知られている。時間分解蛍光測定法は、このランタノイド錯体の蛍光特性を利用し、パルス励起光を照射することによって、非特異的蛍光を消失させ、ランタノイド錯体の蛍光のみを選択的に検出する方法である。125Iラベルに匹敵する感度が得られること、また、安定で取り扱いが簡便であることから、生化学実験におけるトレーサーとして広く利用されている。Eu標識抗体を用いた時間分解蛍光免疫測定法(TR-FIA)(1) が最も一般的な応用例である。

1.ランタノイド標識剤 (Fig. 1)
1) ポリカルボン酸
  無水DTPA (A) (2)、及びN1(p-isothiocyanatobenzyl)-diethylenetriamine-N1,N2,N3,N3-tetraacetic acid (B)、他-----ポリカルボン酸錯体自身は蛍光が弱いため、免疫反応後、増強試薬(trioctylphosphine oxide, 2-naphthoyltrifluoroacetone, Triton X-100)でEu を解離させ、蛍光の強い錯体(C)に変換して測定する。の方法は特にDELFIA(dissociation enhanced lanthanoide fluoroimmunoassay)と呼ばれる。

2) βジケトン類
 BHHCT (D)(3)---直接タンパク質を標識することができ,Eu錯体は強い蛍光を発する。

3) 芳香族アミン類
 Quantum-dye(QD) (E)---QD自身、時間分解蛍光測定法で検出するのに充分な蛍光を有しているが増強試薬と反応してさらに強い蛍光を発する。

2.糖鎖生物学分野における応用例

1) 糖鎖関連酵素活性測定
TR-FIAによる糖転移酵素等の活性測定法が報告されている(4)。また、Eu標識レクチンを用いることによって、糖転移酵素 (5)、エンドグリコシダーゼ及びグリコペプチダーゼ (6)活性を測定することが可能である。

2) 糖鎖−タンパク質相互作用解析
Eu標識糖ペプチドやneoglycoproteinを用いて、レクチンの結合特性を解析することができる。Leeら(5)は、血清mannose binding protein糖鎖認識領域をマイクロタイタープレートに固定化し、QD標識neoglycoprotein(QD-Man-BSA)を用いて結合実験及び阻害実験を行い、125I-Man-BSAを用いた場合と同様な結果が得られることを示している。また、QD-Gal-BSAを用い、hepatic Gal/GalNAc receptorの結合実験にも応用している。最近、Odaら(7)は、サフラン球根レクチン(CSL)の結合特性を、Flow injection, Fluorescence polarization, SPRと同時にEu標識(Man)3GlcNAc-glycopepideを用いた固相分離法を用いて解析している。
川崎ナナ (国立医薬品食品衛生研究所・生物薬品部)
References (1) Hemmlila, I, Dakubu, S, Mukkala, V.-M, Siitari, H, Lovgren, T, Anal. Biochem. 137, 335-343,1984
(2) Kawasaki, N, Lee, YC, Anal. Biochem. 250, 260-262, 1997
(3) Yuan, J, Matsumoto, K, Kimura, H, Anal. Chem. 70, 596-601,1998
(4) Taki, T, Nishiwaki, S, Handa, N, Hattori, N, Handa, S, Anal. Biochem. 219, 104-108, 1994
(5) Lee, YC, Kawasaki, N, Lee, RT, Suzuki, N, Glycobiology 8, 849-856,1998
(6) Deras, IL, Sano, M, Kato, I, Lee, YC, Anal. Biochem. In press.
(7) Oda, Y, Nakayama, K, Kinoshita, M, Kawasaki, N, Hayakawa, T,Kakehi, K, Abdul-Rahman, B, Lee, Y C, Glycobiology(abstract), 9, 1132,1999
2000年 3月 15日

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