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糖タンパク質のグリコフォーム分析

  グリコフォームとはタンパク質部分の一次構造が同一で糖鎖部分のみが異なる糖タンパク質のサブユニットと定義されている.糖鎖構造の違いが糖タンパク質の物理的化学的性質の微妙な変化をもたらし,糖タンパク質の生理機能を大きく変化させるため,グリコフォームの解析は糖タンパク質の機能解析を行う上で極めて重要である(1)。 例えば,組換体の組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)では,少なくとも11,500種ものグリコフォームの存在が知られている(2)。

 各グリコフォームの分離分析にはイオン交換,正相及び逆相クロマトグラフィー,各種電気泳動などが利用されている。これらの分離は主として試料の疎水性やシアル酸などのチャージの相違に依存しており,糖タンパク質を直接,グリコフォーム単位で相互分離することは,分析条件を詳細に検討したとしても一般に困難である。
 
そのため従来の研究例の多くは,直接,グリコフォームを解析するのでなく,糖タンパク質から酵素的或いは化学的手法で糖鎖を切り出し,分析の対象としている(図)。切り出した糖鎖の分析に関しては,

1) 糖鎖の還元末端を2−アミノピリジル化した後,逆相型とアミド吸着型の2種類のHPLCの組み合わせによって糖鎖を分離・同定する2次元マップ法(3)
2) 核磁気共鳴分光法(NMR) による構造伝達群(structural reporter group)に着目して経験的に構造を推定する方法(4)
3) 高速原子衝撃法(FAB)(5),エレクトロスプレー法(ESI)(6),マトリクス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析計(MALDI-TOFMS)(6)などのソフトなイオン化法による質量分析(MS)や,LC-MSで切り出した糖鎖画分を誘導体化後,単離することなく構造解析する方法(7)などが従来用いられてきている。
図. オリゴ糖試料の調製法の概要
しかしながら,前二者の方法は,一種のデータベースを利用する経験的な手法であり,未知試料への適用は困難である。後者の方法は未知試料への適用も可能であるが,分子量情報を基にしているため,単糖の種類やグリコシド結合やアノマー配置などの解析には適していない。従って,現状では,分析目的に応じてこれら手法を上手に使い分けることがポイントとなる。
 
また,最近,CEで糖タンパク質を分離した後,各フラクションを分取し,それぞれの画分についてオフラインでMALDI-TOFMS分析し,グリコフォームを直接解析するといった試みもなされ,注目されるが(2),グリコフォームの分離は十分でなく現時点での応用はバイオ医薬品の品質評価などに限定されると思われる。
岡本 昌彦 (住友化学工業株式会社・生物環境科学研究所)
References (1) TW, Rademacher, RB, Parekh, RA, Dwek Annu. Rev. Biochem. 58, 785, 1988
(2) JA, Chakel, E, Pungor Jr, WS, Hancock, SA, Swedberg J. Chromatogr. B. 689, 215, 1997
(3) N, Tomiya, J, Awaya, N, Kurono, S, Endo, Y, Arata, N, Takahashi Anal. Biochem. 171, 73, 1988
(4) JFG, Vliegenthart, L, Dorland, H van Halbeek Adv. Carbohydr. Chem. Biochem, 41, 209, 1983
(5) A, Dell Adv. Carbohydr. Chem. Biochem, 45, 19, 1987
(6) J, Charlwood, H, Birrell, P, Camilleri, J. Chromatogr. B. 734, 169,1999
(7) J, Suzuki-Sawada, Y, Umeda, A, Kondo, I, Kato Anal. Biochem. 207, 203, 1992
2000年 6月 15日

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