Proteoglycan
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基底膜のプロテオグリカン

  基底膜は、実質細胞と結合組織との界面に形成される細胞外基質(ECM)の特異な膜状構造物である。生体の各組織・臓器に普遍的にみいだされる一方で、腎糸球体毛細血管ループや神経シナプス膜など高度に特化したものもある。したがって、細胞を間質に接着させるだけでなく、選択的な物質・細胞透過や細胞分化の誘導等の機能が判明してきた。腎糸球体では、基底膜の陰性荷電が腎のろ過機能を担っているとみなされ、その陰性荷電は現在パールカンとよばれるヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)によることが古典的にしられてきた。HSPGは腎糸球体基底膜だけでなく、種々の基底膜に、IV型コラゲン、ラミニン、エンタクチン等同様にその基本的構成分子として、ひろく分布している。
 基底膜のHSPGには、もっともよく性格づけされてきたパールカンのほかに、近年になってその特異な発現に注目されているアグリンがある。さらに、基底膜にはバーマカンとよばれるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンが存在する。そのほかにも小型のプロテオグリカンの存在がしめされているが、ここでは、上記三種の基底膜プロテオグリカンについて解説する。


【パールカン】
 コア蛋白質は、分子量467KDa(ヒト)、他のECM分子同様5個の機能的ドメイン構造からなる。N末端の第一ドメイン(D-I)には3本のヘパラン硫酸鎖の結合部位、D-IIにはLDLレセプタ様くり返し構造、D-IIIにはラミニン短腕様のくり返し、D-IVにはIg型NCAM様のくり返し、D-VにはラミニンA鎖様くり返しとEGFモチーフがふくまれており、コア蛋白質部分だけでもきわめて多機能性がうかがえるが、具体的な証明は少ない。ヘパラン硫酸鎖一本の分子量は平均380KDa、電子顕微鏡では長さは平均87nmと推定されているが、不均質性が高い。また、デルマタン硫酸鎖が付加されたハイブリッド型も存在するという。他分子のヘパラン硫酸鎖同様、細胞増殖因子との結合をはじめ多彩な機能が明らかにされつつある。ヘパラン硫酸鎖のほかに、N-結合型およびO-結合型のオリゴ糖鎖が総量で約20KDa付加されており、分泌への関与が示唆されている。


【アグリン】
 1980年代後半に神経筋接合部シナプス後膜でのアセチルコリン受容体ならびにアセチルコリンエステラーゼの凝集を誘導する蛋白質としてみいだされたが、近年、ヘパラン硫酸プロテオグリカンであることが明らかとなり、シナプス以外の基底膜にも存在し、腎糸球体ではパールカンよりも豊富であるという。コア蛋白質は、250KDa(ニワトリ)、頭部(N末端)ラミニン結合部位をふくむ球状ドメイン、フォリスタチン様桿部と尾部(C末端)のラミニンG様球状ドメイン3個からなり、ヘパラン硫酸鎖とN-結合型オリゴ糖鎖それぞれ4本ずつの修飾が予測されているが、詳細は不明である。神経組織ではHS鎖によるNCAMとの結合性が注目されている。神経組織ほかの基底膜に存在するが、特異なスプライシングをうけたものがシナプスに局在するという。


【バーマカン】
 コア蛋白質は138KDa(マウス)、頭部、桿部、尾部を形成する5個のドメイン構造からなる。桿部にはコイルドコイル構造があり、コア蛋白質部分の独自の機能も推測される。コンドロイチン硫酸鎖は第二ドメイン(D-II)に1本、D-Vに2本、さらに、D-II・D-IVに合計3本のN-結合型オリゴ糖鎖が付加されている。パールカン同様、種々の基底膜にふくまれているが、腎糸球体毛細血管ループには存在しない。基底膜構造の安定化に機能しているといわれているが、詳細は不明である。
図1 パールカンの分子構造模式図
図
朔 敬 (新潟大学・歯学部)
References(1) Noonan, DM, Hassel, JR: Proteoglycans of basement membranes. In: Rohrbach, DH, Timpl, R (ed): Molecular and cellular aspects of basement membranes. Academic Press, Inc, New York, pp. 189-210, 1993
(2) Tsen, G, Halfter, W, Kroeger, S, Cole, G: Agrin is a heparan sulfate proteoglycan. J. Biol. Chem. 270, 3392-3399, 1995,
(3) Wu, R, Couchman, JR: cDNA cloning of the basement membrane chondroitin sulfate proteoglycan core protein, bamacan: a five domain structure including coiled-coil motifs. J. Cell Biol. 136, 433-444, 1997
1998年 9月 15日

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