Proteoglycan
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ヘパラン硫酸の生合成と分解

  ヘパラン硫酸はヘパラン硫酸プロテオグライカンの糖鎖(glycosaminoglycan)成分として生合成され、広く動物細胞表面や基底膜に存在し、多くの蛋白質と相互作用を示して多彩な生物学的機能を示す(本シリーズA00 - A02)。図1にヘパラン硫酸プロテオグライカンの生合成過程と、細胞膜型ヘパラン硫酸プロテオグライカンの細胞内分解過程の概要を示した(1)。ヘパラン硫酸はゴルジ装置内でコア蛋白のセリン残基上に合成された結合領域四糖[GlcA-Gal-Gal-Xyl-(Ser)]に引き続いて合成され(本シリーズA06)、約40-100回繰り返す二糖構造[GlcA-GlcNAc]nからなる。ヘパラン硫酸主鎖は、グルクロン酸転移酵素活性とN-アセチルグルコサミン転移酵素活性の両方を持つ単一の酵素(ヘパラン硫酸合成酵素、2)により合成されるらしい。この基本糖鎖が局所的にN-脱アセチル/N-硫酸転移酵素(ひとつの酵素が二重の活性を持つ)、C-5 エピ化酵素、2-O 硫酸転移酵素、6-O硫酸転移酵素、3-O硫酸転移酵素等の酵素により修飾される。この修飾はヘパラン硫酸鎖上不均一になされ、種々の程度に修飾され複雑な硫酸化パターンを持ったヘパラン硫酸鎖が形成される(2, 3)。特定の硫酸化パターンがヘパラン硫酸の生物学的活性に重要である (本シリーズA01)
図1A. 粗面小胞体とゴルジ装置におけるヘパラン硫酸プロテオグライカンの生合成過程
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図1B. 細胞膜型ヘパラン硫酸プロテオグライカンの細胞内分解過程
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細胞表面からエンドサイトーシスされたヘパラン硫酸プロテオグライカンはまずコア蛋白が分解され、ヘパラン硫酸鎖に特異的な endoglycosidase(ヘパラネース)により部分分解を受ける。この過程は中性pHに近い条件で起こると考えられる。次に酸性pHの条件でさらにヘパラネースによる部分分解をうける。最終分解過程はライソソームで起こり、exoglycosidase、脱硫酸酵素により、単糖及び無機硫酸を生じる。詳しくは文献1を参照。
 このように多くの糖生合成酵素を必要とするヘパラン硫酸鎖の生合成過程がどのように 制御されるだろうか?プロテオグライカンをはじめとした複合糖質の生合成調節機構が多くの機能蛋白と大きく異なる点がここにある。蛋白質生合成の場合には、その遺伝子の転写調節、翻訳調節といったメカニズムにより直接のコントロールが容易であるが、複合糖質の生合成の場合には単純な要素だけを考えてみても、(a) アクセプター蛋白(コア蛋白)生合成の制御、(b)糖転移酵素、硫酸転移酵素など複数ある糖鎖修飾酵素それぞれの活性制御、そして(c)細胞内小器官(ゴルジ装置、粗面小胞体)を介した複合糖質生合成の統合(3)といった多くの過程をコントロールすることが必要となる。ヘパラン硫酸鎖の持つ構造的特徴とその生物学的活性の間のユニークな関係から、さらに複雑な生合成の制御様式が浮かび上がってくる。すなわち、ヘパラン硫酸の示す多くの蛋白質との相互作用はその特異的な硫酸化パターンによるが、この特異的硫酸化パターンがいかにして形成されるのかという問題である。硫酸転移酵素の活性を調節するだけで、ランダムに硫酸化の程度を変化させても、生物学的活性を持つ硫酸化パターンを効率よく形成するのは難しいのではないか?特定の硫酸化パターンを形成するためには硫酸化のための(機能的)鋳型のようなものが必要であろうか(たとえば酵素複合体など)。ゴルジ装置内での酵素局在はヘパラン硫酸生合成過程の中でどのような意義を持つか(4)?それぞれが関連を持つ多数酵素の制御を遺伝子発現機構としてどのように実行できるだろうか?等々の疑問である。ヘパラン硫酸の機能制御はその生合成調節だけでは終わらない。ヘパラン硫酸プロテオグライカンの細胞表面や細胞外マトリックスへの輸送機構、さらに分解過程の調節等がその分子機能の調節に重要であることは容易に理解されるであろう。細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグライカンの代謝はユニークな細胞内代 謝過程をとることが知られている。図1に示したように、細胞表面型ヘパラン硫酸プロテオグライカンは、多くの場合細胞によりエンドサイトーシスされ、ユニークなライソソーム前、および典型的なライソソーム内分解を受ける。ヘパラン硫酸が中間代謝産物の形で細胞内に存在することにどのような意義があるのか、興味のある問題である。細胞外マトリックス中ヘパラン硫酸プロテオグライカンの代謝過程に関してはいまだに多くが知られていないが、細胞外マトリックス構造の保全、ヘパラン硫酸に結合した成長因子作用の調節など、この分子の持つ分子機能を考えると、その代謝調節機構は大変興味深いものがある。
柳下正樹(東京医科歯科大学・歯学部生化学講座)
References(1) Yanagishita, M : Cellular catabolism of heparan sulfate proteoglycans. TIGG 10, 57-63 ,1998
(2) Lindahl, U, Kusche-Gullberg, M, Kjellen, L : Regulated Diversity of Heparan Sulfate. J. Biol. Chem. 273, 24979-24982 ,1998
(3) Rosenberg, RD, Shworak, NW, Liu, J, Schwartz, JJ, Zhang, L : Heparan sulfate proteoglycans of the cardiovascular system. Specific structures emerge but how is synthesis regulated? J. Clin. Invest. 100 (11 Suppl.) : S67-75, 1997
(4) Uhlin-Hansen, L, Yanagishita, M : Differential effect of brefeldin A on the biosynthesis of heparan sulfate and chondroitin/dermatan sulfate proteoglycans in rat ovarian granulosa cells in culture. J. Biol. Chem. 268, 17370-17376, 1993
1998年 12月 15日

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