Sep. 30, 2004

癌転移におけるNK細胞とシアリルルイスX(2004 Vol.08, A8)

大山 力

氏名:大山 力
弘前大学医学部泌尿器科学講座

癌転移のメカニズムには複雑な多段階のステップが存在するが、ふたつの大きな要因に分けて考える必要があろう。ひとつは癌細胞自体が具備する悪性度であり、もうひとつは宿主の免疫能である。癌細胞が血行性転移する際に、血管内皮細胞に発現するE-セレクチンとそのリガンドである癌関連糖鎖抗原シアリルルイスXやシアリルルイスAとの接着は最初の重要なステップと考えられている。一方、自然免疫系で大きな役割を果たすNK(natural killer)細胞は抗原の感作なしで腫瘍細胞を傷害するリンパ球である。NK細胞レセプターのひとつにC型レクチン様レセプターが存在するが、標的とする癌細胞のどのような構造を認識するのかに関しては不明な点が多い。

著者らが細胞表面のシアリルルイスXの発現量を変化させ、転移能に関する検討を行ったところ、シアリルルイスXとNK細胞との新たな関係が明らかになってきた。まず、シアリルルイスXを全く発現していないB16F1メラノーマ細胞にfucosyltransferase-III (FUT3) のcDNAを導入して定常的発現クローン株を作製した。この定常的発現クローン株をシアリルルイスXの発現量によって3つの分画つまり、シアリルルイスXを非常に強く発現しているH細胞, 中等度に強く発現しているM細胞, 全く発現していないN細胞の分画に分けた。この3つの細胞株をC57BL/6マウス尾静脈から注射して形成される肺転移結節の数はM>N=Hの順で多かった。シアリルルイスXを最も多く発現しているH細胞は肺血管の中でアポトーシスに陥り、ほとんど転移結節を形成できなかった。次に種々の免疫不全マウスを用いて同様の転移実験をおこなったところ、NK活性を欠くbeige マウスおよび抗アシアロGM1抗体でNK活性を失活させたマウスでは、転移巣の数はH>M>Nの順になった。つまり、シアリルルイスXの過剰発現は血管内皮細胞との接着能を亢進させるが、その一方でNK細胞の細胞傷害性を惹起させることが示唆された。

さらにヒトメラノーマ細胞,MeWoにおいても同様の現象が起こることを確認した。そこで、メラノーマ細胞をターゲットとし、ヒトNK細胞をエフェクターとした細胞障害アッセイを行ったところ、H>M>Nの順で細胞傷害性が高度であった。しかも、この細胞傷害はCD94に対するモノクローナル抗体や抗シアリルルイスXモノクローナル抗体及びシアリルルイスXオリゴ糖でブロックされた。さらに、糖鎖構造解析の結果も考慮すると、シアリルルイスXの中等度の発現(M細胞)は高転移性の獲得を意味するが、高度に発現(H細胞)するとNK細胞による攻撃を受けやすいと考えられた。

fig1
図 1 シアリルルイスX(sLeX)発現量によってNK細胞傷害性が異なる


References
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Links : シアリルルイスX LE-A05, GP-A03, GT-D03, GG-A00, IS-A02

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