Oct 01, 2021

ヒトミルクオリゴ糖と腸内細菌-歴史的背景と現状-
(Glycoforum. 2021 Vol.24 (6), A16J)

DOI: https://doi.org/10.32285/glycoforum.24A16J

北岡 本光 / 片山 高嶺

北岡 本光

北岡 本光
国立大学法人新潟大学農学部、博士(農学)
1985年東京大学工学部反応化学科卒業、民間企業を経て1993年論文博士。1995-1998年アイオワ州立大学博士研究員としてデキストラン合成酵素の反応機構を研究。1998-2019年農研機構食品研究部門にて酵素を利用したオリゴ糖の実用的生産技術の開発を中心にした研究に従事。2019年4月より新潟大学教授。

片山 高嶺

片山 高嶺
京都大学大学院生命科学研究科 教授
1994年京都大学農学部食品工学科卒業。1996年京都大学大学院農学研究科修士課程修了。1999年京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了博士(農学)、京都大学大学院農学研究科リサーチアソシエイト。2002年京都大学大学院生命科学研究科助手。2005年石川県立大学准教授。2013年石川県立大学教授。2015年京都大学大学院生命科学研究科教授。
京都大学農学部食品工学科を卒業後、同大学院に進学し、熊谷英彦先生の下で学位を取得。応用微生物学分野を専門とする。同研究室で3年間博士研究員として在籍した後に、京都大学大学院生命科学研究科統合生命科学専攻・山本憲二教授研究室の助手に着任し、糖質関連酵素に関する研究をスタートさせる。ビフィズス菌がヒト由来の糖質に作用する酵素を有していることを見出し、ヒトと腸内細菌の共生に着目する。母乳栄養児におけるビフィズスフローラ形成機構の解明に貢献した。

序文

母乳栄養乳児の腸内にはビフィズス菌優勢な菌叢が形成され、その腸内細菌叢が健康に有利に働くことが知られている。1899年のビフィズス菌発見当初から母乳中のどの成分がどのようにしてビフィズス菌優勢な菌叢を形成させるかを解明する研究が行われており、1950年代頃にはヒトミルクオリゴ糖がビフィズス菌増殖因子として作用することが報告された。しかしながらヒトミルクオリゴ糖の複雑な構造がビフィズス増殖メカニズムの解明を拒んでいたが、21世紀に入り、ビフィズス菌のヒトミルクオリゴ糖資化についての系統的な理解が急速に進んだ。本論では、ヒトミルクオリゴ糖のビフィズス菌増殖因子としての研究に関する歴史的経緯および現状を紹介する。

1. 乳児とビフィズス菌

ビフィズス菌とはBifidobacterium属細菌の総称であり、その発見は1899年のHenri Tissierによる母乳栄養乳児糞便からの単離報告に遡る。当時の西欧では、人工乳栄養児が乳児下痢症を発症しやすいことが問題となっていた。Tissier博士は母乳栄養乳児の糞便にはビフィズス菌が多く観察されるものの、人工乳栄養乳児の糞便には殆ど存在しないことを見出し、ビフィズス菌優勢な腸内細菌叢が乳児下痢症を防ぐなど健康面で重要な影響を及ぼしていると考えたと伝えられている1。なお、現代の人工乳にはプレバイオティクス*1オリゴ糖などビフィズス菌を効率よく増殖させる成分が添加されているため、人工乳栄養乳児の腸管でも母乳栄養乳児と比べて遜色ない程度のビフィズス菌優勢な細菌叢が形成されるようになっている2,3。Tissier博士は単離した菌株にBacillus bifidus communisと種名を記すとともに新属名としてBifidobacteriumを提案したが、その属名が正式に採用されたのは75年後であった(Bergey’s manual of determinative bacteriology, 8th edition)。

*1プレバイオティクス: 宿主に生息し、健康に好影響をもたらす微生物によって選択的に利用される食品成分4

2. ヒトミルクオリゴ糖(HMO)とビフィズス菌

上記のような背景から、人乳にはビフィズス菌を増殖させる成分「ビフィズス因子」が含まれると考えられるようになり、1910年頃から関連する研究が精力的に行われた。1953年にGyörgyらは、Bifidobacterium bifidum var. Pennsilvanicus株(当時の分類ではLactobacillus bifidus)の増殖促進能を指標に人乳からビフィズス因子の単離を行い、それはN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、フコース(Fuc)、ガラクトース(Gal)、およびグルコース(Glc)からなるラクトース以外のオリゴ糖であると報告した5。この報告以降、母乳に含まれる三糖以上のオリゴ糖混合物であるヒトミルクオリゴ糖がビフィズス因子であると考えられるようになった。

HMOの概要については本シリーズ初回のヒトミルクオリゴ糖の科学6に記載されているが、その特徴はラクト-N-テトラオース(Galβ3GlcNAcβ3Galβ4Glc, LNT)を骨格とする1型糖鎖構造を著量含むことである。一方で、霊長類を含むヒト以外の哺乳類乳においてはLNTが含まれていない、もしくは含まれていたとしても少量である7

3. HMOとラクト-N-ビオースI 仮説

HMO組成が複雑であることから、近年までビフィズス菌がどのようにHMOを分解・利用しているのかを系統的に理解することが困難であった。1999年にBouqueletらはBifidobacterium bifidumの菌体抽出液から1型糖鎖構造であるLNB (Galβ3GlcNAc)およびガラクト-N-ビオース(Galβ3GlalNAc, GNB)を選択的に加リン酸分解する1,3-β-ガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ(GNB/LNBホスホリラーゼ, GLNBP)を精製して報告した8。その後、北岡らがBifidobacterium longum subsp. longum (以下B. longum)より本酵素遺伝子を単離したところ、そのホモログが複数のビフィズス菌種に見られたことから、本酵素のヒト腸管における存在意義が再考されることとなった9,10。すなわち、Bifidobacterium属におけるGLNBP遺伝子の分布およびLNB資化性について調査が行われた結果、Bifidobacterium breve, Bifidobacterium longum subsp. infantis (以下B. infantis), B. longum, およびB. bifidumなどの乳児糞便からよく単離される種にGLNBP遺伝子が良く保存されており、かつこれらの菌がLNB資化性を示すことが明らかとなった。一方で、成人糞便からの分離例が多いBifidobacterium adolescentisBifidobacterium catenulatumは当該遺伝子を持たず、LNBを資化できないことが報告された11。これらの結果から、北岡は「ラクト-N-ビオースI仮説」を提唱し、GLNBPおよびLNB資化性が乳児腸管に生息するビフィズス菌種とそれ以外の菌種の差異を説明できる可能性を示すと共に、HMOのビフィズス因子としての分子基盤を解明できる可能性について言及した9

このラクト-N-ビオースI仮説を契機としてHMO分解に関わる酵素群が次々に発見され、現在までにHMO分解に必要なビフィズス菌の全てのグリコシダーゼ群と一部のトランスポーターが同定されている(4 . HMO資化に関わるビフィズス菌の酵素を参照)。なお、同時期にDavid A. MillsらのグループがB. infantisに高いHMO資化性を発見しており、彼らはその後、基準株ATCC 15697株(= JCM 1222株)のゲノム解析を行うことでHMO分解の分子基盤解明に取り組んだ12

4. HMO資化に関わるビフィズス菌の酵素

代表的な乳児型ビフィズス菌B. breve, B. infantis, B. longum, およびB. bifidumのHMO分解経路の概要を図 1に示す。酵素の詳細について以下に説明するが、ビフィズス菌のHMO資化経路は大きく分けて菌体外で単糖・2糖にまで分解するタイプと3糖以上の構造を直接取込むタイプに分けられる。

図1
図 1. 主要な乳児型ビフィズス菌種におけるHMO資化経路
10種類の代表的な中性HMOのB. infantis (A), B. breve (B), B. longum (C), およびB. bifidum (D)における資化経路を示す。該当する酵素の種内保有率を異なる色の矢印で示した(保有率については図 3を参照)。赤色矢印は75 %以上の、黄色は25−75 %の、灰色は25 %以下を表す。未同定の経路については点線で示した。HMOを菌体表層で分解して利用するタイプにかかわる細胞壁アンカー型酵素を薄緑色で、トランスポーターを薄茶色で、HMOを直接取込み利用するタイプにかかわる菌体内酵素は薄紫色で示した。細胞外で生じた単糖・2糖は他の腸内細菌、特にビフィズス菌内にクロスフィードされる。
本図は、阪中らの論文29を一部改変して作成した。
4-1.GNB/LNB経路

GLNBP遺伝子は、GNB/LNB資化に必要な経路(GNB/LNB経路)を構成する酵素群と共に遺伝子クラスターを形成している(図 2)。GNB/LNB経路は、GNB/LNBを特異的に取り込むトランスポーター13、GLNBP、およびGLNBPによる分解物を解糖系に導入するために必要な酵素群により構成される14。基本的に7遺伝子(gltABC-lnpABCD)によるクラスターであるが、ビフィズス菌種によりその構成に若干の違いが見られる。

gltABCはATP-binding cassette型(ABC)トランスポーターをコードしている。GltAは基質結合タンパクであり、GNB/LNBに特異的に結合するがLacNAcには結合能がない。LNTにも結合能を有するが、B. longum JCM 31944株のラクト-N-ビオシダーゼ遺伝子(lnbX. 後述)を欠損させるとLNTでの増殖能が著しく低下することから15、LNTは取込まないと考えられている。

lnpAは前述したGLNBPをコードしており、GNB/LNB以外のオリゴ糖には作用しない特異性の高いホスホリラーゼである。反応産物としてガラクトース1-リン酸(Gal1P)とN-アセチルヘキソサミンを生成するが、これにより、加水分解によるGal生成と比較して解糖系に導入するまでにATP 1分子を節約することが可能となる。lnpBはGlcNAcおよびGalNAcのαアノメリック水酸基をリン酸化するN-アセチルヘキソサミン1-キナーゼ(NahK)をコードしている。lnpCは、UDP-Glc/GalからGal1P/Glc1PにUMP基を転移する酵素(GalT)、lnpDはUDP-Galを可逆的にUDP-Glcに変換する酵素(GalE)をコードしている。GalETはガラクトース代謝経路として有名なLeloir経路を構成する酵素であり、Gal1PをGlc1Pに変換することにより解糖系に導入するが、本クラスター内のLnpCDは通常のGalETとは異なりGlcNAc/GalNAcにも作用する。そのため、LnpBにより生成するGalNAc1PはGlcNAc1Pに変換されて解糖系に導入可能となる。

まとめると、GNB/LNB経路は菌体外で生成したGNB/LNBを菌体内に取り込んで分子全体を解糖系に送り込むための経路である。GNB/LNB経路は当時調べた限りの乳児型ビフィズス菌B. breve, B. infantis, B. longum, およびB. bifidumの全ての株が保持していたが、成人糞便から単離されるB. adolescentis, B. catenulatum,およびBifidobacterium animalis subsp. lactisは保持していなかった11

図2
図 2. 乳児型ビフィズス菌種に分布するGNB/LNB経路
B. longum JCM 1217株ゲノムにおけるgltABC-lnpABCD遺伝子クラスターおよびそれら酵素によるGNB/LNB資化経路の模式図を示した。
4-2.ラクト-N-ビオシダーゼ

LNTをGNB/LNB経路に導入するには、LNTをLNBとラクトース(Lac)へ切断する酵素ラクト-N-ビオシダーゼ (LNBase)が必要となる。当時、LNBaseとしては糖加水分解酵素ファミリー(GH) 20に属する酵素が放線菌から唯一単離されていたが16、ビフィズス菌ではB. bifidumおよび一部のB. longum株が活性を示した。その後、B. bifidumからはGH20に属するLNBaseが、B. longumからはGH136として分類されることとなる新規なLNBaseが単離された17,18。LNBase活性の分布は狭く、GH20 LNBaseはB. bifidumのみに、GH136 LNBaseはB. bifidumおよび半数程度のB. longum株にのみそのホモログが確認されている。これらの酵素は全て分泌型であり細胞壁に結合している。

4-3.フコシダーゼおよびシアリダーゼ

HMO分子は20種類のコア構造がフコースやシアル酸で修飾された構造を有する19。フコース修飾を切断する酵素としてはGH95に属するH抗原特異的1,2-α-フコシダーゼおよびGH29に属するルイス抗原特異的1,3/4-α-フコシダーゼが、またシアル酸修飾を切断する酵素としてはGH33に属するα-シアリダーゼが同定されている20-22。なお、これらの酵素の分布は図 3に示す通りであり、B. bifidumにおいては膜結合型酵素として存在しているものの、それ以外のBifidobacterium菌種では菌体内酵素として存在する。

図3
図 3. 種々のビフィズス菌ゲノムにおけるHMO資化遺伝子の保有率
HMOを菌体表層で分解して利用するタイプにかかわる遺伝子を薄緑色で(B. bifidumおよびLNBase保持型B. longum)、HMOを直接取込み利用するタイプにかかわる遺伝子を紫色でハイライト表記した。トランスポーター遺伝子は薄茶色でハイライトした。FL1-BP, FL2-BP, およびLNnT-BPは、フコシルラクトーストランスポーター1、フコシルラクトーストランスポーター2、およびラクト-N-ネオテトラオースの基質結合タンパク質を表す。遺伝子の相同性はtblstnを使用して解析し、検索配列の60 %以上の範囲で70 %以上の一致度を示し、期待値が1 × 10−50以下のものを抽出した。検索は16種(亜種)のビフィズス菌ゲノムを対象に行った。得られた結果を、乳児型ビフィズス菌群、成人および口腔型ビフィズス菌群、動物および乳製品型ビフィズス菌群に分けて表記した。種(亜種)名はパネルの上端に表記し、種(亜種)内での保存性は抽出された相同遺伝子数を調べたゲノム数で除することで算出した。 本図は、阪中らの論文29を一部改変して作成した。
4-4.LNT-1,3-β-ガラクトシダーゼおよび菌体内N-アセチルヘキソサミニダーゼ

次の「5. 乳児型ビフィズス菌のHMO資化性」で述べるようにB. infantisは全てのHMO分子種を直接菌体内に取り込む。B. infantisはGNB/LNB経路を有しているがLNBase活性を有していないためにLNTの分解経路が不明であった。吉田らは、B. infantis JCM 1222株からLNTに高い特異性を有する菌体内GH42 β-ガラクトシダーゼ(LNT-1,3-β-ガラクトシダーゼ)を単離した23。本遺伝子のホモログは、乳児から単離されるビフィズス菌種のみならず、成人から単離される一部のビフィズス菌種にも分布する。菌体内GH20 β-N-アセチルグルコサミニダーゼとしては相同性の異なるいくつかのホモログが報告されているが24,25、いずれも乳児から単離されるビフィズス菌種に保存されている。菌体内に直接取り込まれたLNTはGNB/LNB経路を経由せず、非還元末端からこれらのグリコシダーゼによって単糖にまで分解されて利用される。

5. 乳児型ビフィズス菌のHMO資化性

2011年に朝隈らは、代表的な乳児型ビフィズス菌4種のHMO資化性(表現型)をそれらの株が有するHMO遺伝子型と関連づけて報告した26。彼らは、人乳から精製した中性HMO画分を単一炭素源として添加した培地においてB. bifidum JCM 1254株、B. longum JCM 1217株、B. infantis JCM 1222株、およびB. breve JCM 1192株をそれぞれ培養し、経時的に培地中のHMOおよびその分解物の消長を調べた。培養の結果、B. bifidumおよび B. infantisはHMO添加培地で旺盛な増殖能を示すものの、B. longumおよびB. breveの増殖能は低いものであった。細胞壁アンカー型HMO分解酵素を多数有しているB. bifidumの培養上清においてはHMOが単糖および2糖まで分解された後に細胞内に取り込まれている様子が観察されたが、B. infantisの培養上清にはHMO分解物は全く検出されず(一時的に低濃度の単糖が検出されたが、これは浸透圧調整のために細胞内から排出されたものと考えられている)、直接取込まれた後に細胞内で分解されていることが示された。

B. bifidumでは、その培養初期にLNTやラクト-N-フコペンタオースI (LNFP I: Fucα2Galβ3GlcNAcβ3Galβ4Glc)が消費され、それに伴って分解産物であるFuc, LNB, Lac,およびGal濃度の上昇が見られた。その後、LNBとLacは直ぐに消費されるものの、FucやGalは消費されないまま残されていた。これらのことから、B. bifidumによって生じたHMO分解物が他の菌にクロスフィードされている可能性が示唆された。その後、後藤らはヒト糞便培養を行うことでB. bifidumの利他的性質を明らかとしている。すなわち、糞便懸濁液にB. bifidumを添加した場合にはB. bifidum以外のビフィズス菌が増殖して菌叢全体における占有率が大きく上昇することを示した。この効果はGlcを炭素源とした場合には見られず、またHMO添加培地であってもフコシダーゼ阻害剤を添加した際には消失した27。なお、後藤らの報告に先立ちTannockらは、B. bifidumBifidobacterium属全体の中で10 %以上を占めている場合に、菌叢全体に占めるビフィズス菌の占有率が高いことを乳児糞便サンプルを解析することで報告していた。この傾向は、母乳哺育児グループのみで見られ、ラクトース以外のオリゴ糖をほとんど含まない牛乳や山羊乳をベースとした人工乳哺育グループでは見られなかったことは興味深い事実である28B. longumB. breveの培養上清からはLNTのみが消失していたが、B. longumにおいては培養上清中にLNBの一過的な上昇が観察された。これは、B. longum JCM 1217株が有する細胞壁アンカー型ラクト-N-ビオシダーゼLnbXによって生じたものであり、LnbXを保有するB. longum株では、やはりLNT分解物(LNBおよびLac、もしくはそのいずれか)の他菌へのクロスフィードが観察された27。繰返しになるが、B. infantisの培養上清では全てのHMO分子がほぼ同時に培地中から減少しており、本菌の利己的な傾向が示された。なお、HMO直接取り込みタイプを担うトランスポーターのうち、これまで性状解析がされているものはまだ3種類しかなく、今後の課題である。

6. HMO資化遺伝子の保存性

現在までに性状解析されたHMO資化にかかわるグリコシダーゼ、ホスホリラーゼ、およびABCトランスポーターのBifidobacterium属細菌における保存性をゲノムデータベースを使用して体系的に調査した結果を図 3に示す29。一部の例外はあるものの、HMO資化遺伝子はヒト乳児腸管に生息するビフィズス菌に分布していることが良く分かり、HMOを介した乳児型ビフィズス菌とヒトの共進化が推察された。

ビフィズス菌以外でHMO資化能を有する腸内細菌としては、一部のBacteroides属細菌やFirmucutes門細菌、またAkkermansia muchiniphilaが知られているが、B. bifidumB. infantisほどのHMO資化能は見られない30,31。なお、Firmucutes門で酪酸を産生するRoseburia属細菌は、一部のHMOのみならずキシロオリゴ糖などの植物由来オリゴ糖も資化する32。このことは、離乳期におけるHMOから植物多糖への栄養シフトに対応しているとも考えられ、非常に興味深い。

7. おわりに

ビフィズス菌が母乳栄養乳児の糞便から単離されてから50年程度経過した後、HMOがビフィズス因子である可能性が示唆された5。しかしながら数年後、同グループは使用していた菌株のGlcNAcに対する栄養要求性に関する論文を発表した33。このことは、ビフィズス因子に関する論文の修正と捉えられた可能性が高く、HMOとビフィズス菌の関係性が再び言及されるまで更に50年近くの年月を必要とした。しかしながら、そこからわずか10年程度で、2’-フコシルラクトースの人工乳添加が欧米において開始されることとなる(HMO生産については、本シリーズ後半で簗島が執筆する34)。欧米のこのスピード感にはただ感心するばかりであるが、本シリーズで述べられる通り2’-フコシルラクトースの資化性はBifidobacterium属細菌内でそれほど保存されていない(執筆担当: 阪中幹祥35)。HMOを含むプレバイオティクス資化遺伝子のBifidobacterium属細菌における分布は、病原性細菌におけるビルレンス遺伝子分布と対をなすべき概念とも思われ、それぞれの菌株の表現型と遺伝子型を良く理解した上で臨床応用する必要があると思われる36


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