Aug. 03, 2026
宮田 真路 / 北川 裕之
氏名:宮田 真路
東京農工大学農学部准教授
北島健教授(名古屋大学)の薫陶を受け、シアル酸研究により2006年に博士(農学)を取得。その後、Victor D. Vacquier教授(UCSD)の下で博士研究員として研究した。2007年から北川裕之教授(神戸薬科大学)の下、博士研究員としてグリコサミノグリカン研究を開始した。名古屋大学特任助教(2013-2019年)を経て、2019年から東京農工大学で研究室を主宰し、神経系におけるヒアルロン酸とプロテオグリカン複合体の機能解析を行っている。
氏名:北川 裕之
神戸薬科大学学長・教授
1986年京都大学薬学部卒業。1990年日本学術振興会特別研究員。1991年京都大学大学院薬学研究科博士後期課程修了。1991年米国Cytel博士研究員(J. C. Paulson研究室)。1994年神戸薬科大学生化学研究室講師。2000年同助教授。2005年同教授(現職)。2018年同副学長。2022年同学長(現職)。2002年日本生化学会奨励賞、2013年日本薬学会学術振興賞など。研究テーマはコンドロイチン硫酸やヘパラン硫酸などの硫酸化糖鎖の生物学、特に疾患や老化における硫酸化糖鎖の機能解明に取り組んでいる。
序文
プロテオグリカンは、コアタンパク質に特定の糖鎖が結合した複合糖質であり、細胞外マトリックスや細胞表面において多様な生命現象を制御する。近年、プロテオグリカン上の糖鎖生合成の開始、伸長、硫酸化修飾、停止に関わる分子機構が明らかになってきた。本稿では、哺乳動物細胞におけるプロテオグリカンの生合成機構について、最近の知見を交えて概説する。
1. はじめに
動物組織は、細胞とそれを取り囲む細胞外マトリックスからなる。細胞外マトリックスは、細胞を支える単なる足場ではなく、細胞の増殖、分化、移動、接着、シグナル応答を制御する動的な環境である。プロテオグリカンは、この細胞外マトリックスおよび細胞表面を構成する主要な分子群の一つである1。プロテオグリカンとは、コアタンパク質に1本以上のグリコサミノグリカン(GAG)鎖が共有結合した分子の総称である1。構成する糖の種類により複数のGAG鎖が存在するが、本稿ではコンドロイチン硫酸(CS)とヘパラン硫酸(HS)という、2種類のGAG鎖に絞って解説する。CSは、[-4GlcAβ1-3GalNAcβ1-]nという二糖単位の繰り返しからなる直鎖状多糖である2。一方、HSは[-4GlcAβ1-4GlcNAcα1-]nという二糖単位の繰り返しからなる3。これらのGAG鎖は、コアタンパク質上の特定のSer残基に形成されるリンカー四糖という共通構造を介して伸長する。CS鎖が伸長した場合にはCSプロテオグリカンが、HS鎖が伸長した場合にはHSプロテオグリカンが合成される。
CSプロテオグリカンとしては、アグリカン、バーシカン、ニューロカン、ブレビカンなど、細胞外に分泌され、細胞外マトリックスを形成する分子が知られている4(図 1)。一方、代表的なHSプロテオグリカンとしては、シンデカンやグリピカンのように細胞膜表面に局在し、成長因子や接着分子の働きを調節する分子が知られている1,3。まれに、一種類のコアタンパク質がCS鎖とHS鎖の両者を持つ場合もあるが、一本のGAG鎖上にCSとHSが混在することは通常ない。
直鎖状の二糖繰り返し構造は、生合成の途中で硫酸化や異性化の修飾を受け、高度に多様な構造へと成熟する。硫酸化や異性化の位置と程度により、一本のGAG鎖上に特定のドメイン構造が形成され、細胞外で特定のタンパク質と相互作用すると考えられている。本稿では、コアタンパク質上にGAG鎖が形成される過程と、GAG鎖の構造多様性を生み出す分子機構について、最近の知見を中心に概説する。
図 1. CSプロテオグリカンとHSプロテオグリカンの基本構造
プロテオグリカンは、細胞外マトリックスや細胞表面に存在する。CSプロテオグリカンではコアタンパク質上にCS鎖が、HSプロテオグリカンではHS鎖が伸長する。CS鎖およびHS鎖はいずれも、コアタンパク質上のリンカー四糖を介して付加される。
2. GAG鎖生合成の開始
プロテオグリカンの生合成は分泌経路中で進行する。まず、翻訳されたコアタンパク質が小胞体内腔で折りたたまれた後、ゴルジ体へ輸送される。ゴルジ体内腔においてコアタンパク質の特定のSer残基上に、XYLT1/2によりUDP-XylからXylが転移されることで、GAG鎖の合成が開始する(図 2)。ゴルジ体を経由して成熟するタンパク質のうち、プロテオグリカンになることが知られているのは100種類程度である1,5。多くの場合、Ser-Gly配列のSer残基にGAG鎖が付加されるが、すべてのSer-Gly配列にGAG鎖が付加するわけではない。つまり、GAG鎖付加のための明確なコンセンサス配列は不明である。最近報告されたXYLT1の結晶構造解析から、Ser残基直後の+1位にはGlyまたはAlaのような小さいアミノ酸が好まれ、周辺の酸性アミノ酸も基質認識に寄与することが構造的に説明された6。
Xylが転移された後、B4GALT7、B3GALT6、B3GAT3により、2つのGalと1つのGlcAが順に付加され、GlcAβ1-3Galβ1-3Galβ1-4Xylβ1-O-Serという構造のリンカー四糖が合成される2,3。以前より、B4GALT7により最初のGalが付加された後にXylの2位が一過的にリン酸化されることが報告されていたが、2009年にはこの反応の責任酵素としてFAM20Bが同定された7。その後の研究で、FAM20BによるXylリン酸化は、B3GALT6による2番目のGal付加反応を著しく促進し、リンカー四糖の完成とその後のGAG鎖伸長を制御する分子スイッチとして機能することが示された8。しかし後述するように、このリン酸化は一過的な反応であり、GAG鎖の重合が開始される前に除去される。
ヒトでは、リンカー四糖の合成に関与する酵素をコードする遺伝子の変異により、多様な病態を示す遺伝性疾患が引き起こされることが知られている。興味深いことに、B3GALT6を欠損するとGAG合成は強く抑制されるが、一部ではGlcAβ1-3Galβ1-4Xylβ1-O-Serからなる非典型的な三糖構造上にGAG鎖が伸長し得ることが報告されている9,10。
図 2. コアタンパク質上にリンカー四糖が形成される機構
まず、コアタンパク質の特定のSer-Gly配列内のSer残基に、XYLT1/2によりXylが転移される。その後、B4GALT7により最初のGalが転移されると、FAM20BによりXylの2位が一過的にリン酸化され、この修飾はB3GALT6による2番目のGal付加を促進する。B3GAT3によりGlcAが転移され、リンカー四糖が形成されるが、これと共役してXYLPによるXylの脱リン酸化が起こると考えられる。
3. CS鎖とHS鎖の仕分け機構
リンカー四糖が完成した後、GalNAcが付加されるとCS鎖へ、GlcNAcが付加されるとHS鎖への合成が開始される(図 3)。リンカー四糖の構造はCS鎖とHS鎖で共通しているため、どのような分子機構で、あるコアタンパク質上にはCS鎖が伸び、別のコアタンパク質上にはHS鎖が伸びるのかは長年不明であった。ベータグリカンと呼ばれるコアタンパク質を用いた比較的初期の解析では、Ser-Gly配列周辺の酸性アミノ酸クラスターやTrp残基がHS鎖形成を促進することが示された11。最近の研究では、リンカー四糖に最初のGalNAcを転移するCS合成の開始酵素であるCSGALNACT1/2は、コアタンパク質の種類によらず比較的広い基質を利用できることが示された12。一方で、GlcNAcを転移するHS合成の開始酵素であるEXTL3は、コアタンパク質側の酸性配列を認識することが示された12。この結果は、HS付加にはコアタンパク質側の配列情報が重要であることを示唆している。しかしながら、トロンボモジュリンというCSプロテオグリカンを用いた研究ではCS鎖の伸長にもSer-Gly配列周辺の酸性アミノ酸が重要であることが報告されており13、CS鎖とHS鎖の仕分け機構には未だに多くの謎が残っている。
図 3. CS鎖とHS鎖の合成開始とその後の糖鎖の伸長機構
リンカー四糖にCSGALNACT1/2によりGalNAcが付加されるとCS鎖の合成が、EXTL3によりGlcNAcが付加されるとHS鎖の合成が開始される。その後、CHSY1/3とCHPF/CHPF2の複合体がGlcAとGalNAcを順次転移することでCS鎖が伸長する。一方、EXT1とEXT2の複合体がGlcAとGlcNAcを順次転移することでHS鎖が伸長する。さらにCS鎖、HS鎖ともに硫酸化、異性化の修飾を受け、多様な構造を形成する(総説論文[2]、[3]、[4]、[15]を参照)。
4. CS鎖の生合成
CSGALNACT1/2がリンカー四糖の末端GlcAにGalNAcをβ1,4結合で付加することで、CS鎖の合成が開始される(図 3)。CSGALNACT1は、非リン酸化型よりもFAM20BによりXylがリン酸化されたリンカー四糖をより良い基質として利用する14。その後、二糖繰り返し構造である[-4GlcAβ1-3GalNAcβ1-]nの伸長には、CHSY1、CHSY3、CHPF、CHPF2と呼ばれる糖転移酵素群が関与する2,15。CHSY1とCHSY3は、単独の酵素内にGlcA転移活性とGalNAc転移活性の両方を持つ。一方、CHPF/CHPF2はCHSY1/CHSY3と相同性のあるタンパク質として同定されたが、それ自体は明確な糖転移酵素活性を示さない。しかし、CHSY1/CHSY3が二糖単位を繰り返し伸長させるためには、CHPF/CHPF2が必要である。最近の研究では、CHSY1/CHSY3とCHPF/CHPF2が機能的なヘテロ二量体を形成することがクライオ電子顕微鏡解析により示された16。この知見は、CS鎖伸長が酵素複合体の形成により制御されることを示している。また、CSGALNACT1/2が存在しない場合でも、これらの重合酵素複合体が、リンカー四糖に直接CS鎖を伸長させることが知られている2。
CS鎖の繰り返し二糖が様々な位置で硫酸化されることで、CS鎖の構造多様性が生じる。CSの硫酸化には、C4ST1(別名CHST11)およびC4ST2(別名CHST12)によりGalNAcの4位が硫酸化される経路と、C6ST1(別名CHST3)によりGalNAcの6位が硫酸化される経路に大別される。その後、4-O硫酸化GalNAcの6位がさらに硫酸化されたり、6-O硫酸化GalNAcに隣接するGlcAの2位が硫酸化されることで、様々な構造の硫酸化二糖がCS鎖上に形成される2,4。
二糖繰り返し構造の伸長が終わった後で硫酸化反応が起こるわけではなく、CS鎖の伸長中に硫酸化が起こると考えられている。例えば、伸長途中のCS鎖の非還元末端GalNAcが4-O硫酸化されると、CS鎖の伸長が促進される。そのため、C4ST1を欠損すると、4-O硫酸化構造が消失するだけでなく、CS鎖の量も減少する2。最近の研究では、FAM20CがC4ST1と相互作用しCS鎖の硫酸化バランスを制御することが示された17。さらに、ヒトではこの機構が破綻すると、遺伝性骨硬化症の原因となると考えられている。
合成途中のCS鎖では、繰り返し二糖中のGlcAの一部がIdoAへ異性化される場合がある。その後、IdoAに隣接するGalNAcの4位がD4ST1(別名CHST14)により硫酸化されることで合成されるGAG鎖は、デルマタン硫酸鎖と呼ばれ、CS鎖とは異なる機能を発揮する。デルマタン硫酸鎖を持つプロテオグリカンの代表例として、結合組織の力学特性に重要なデコリンが知られている。D4ST1や異性化酵素の変異により結合組織脆弱性を示す疾患が引き起こされることからも、デルマタン硫酸の重要性がうかがえる18。しかし、特定のコアタンパク質上に伸長したCS鎖のみがデルマタン硫酸鎖に構造変化する機構は不明である。
5. HS鎖の生合成
EXTL3の働きにより、リンカー四糖にGlcNAcがα1,4結合で付加されることで、HS鎖の合成が開始される3,12 (図 3)。最近のクライオ電子顕微鏡解析により、EXTL3は2つの糖転移酵素ドメインを持つが、そのうち一方がGlcNAc転移活性を担うのに対して、もう一方のドメインは糖転移活性を担いにくい構造であることが示された19。HS鎖の二糖繰り返し構造である[-4GlcAβ1-4GlcNAcα1-]nの伸長には、EXT1とEXT2が関与する3。EXT1とEXT2はいずれも2つの糖転移酵素ドメインを持つが、単独で働くのではなく、機能的な複合体を形成してHS鎖を伸長する3。最近の構造解析により、EXT1–EXT2複合体中では、EXT1のGT-BドメインがGlcA転移に、EXT2のGT-AドメインがGlcNAc転移に対応することが示された20。これらの知見は、EXTL3が主にHS鎖の開始に関与し、HS鎖の二糖繰り返し構造は、EXT1–EXT2複合体内の複数の糖転移酵素ドメインによる協調的な反応によって合成されることを示している。
伸長中のHS鎖は、様々な酵素によって段階的に修飾される。最初に、NDSTファミリーによりGlcNAcの一部がN-脱アセチル化され、続いてN-硫酸化される。この反応により生じるGlcNSは、その後のHS鎖修飾の起点となる。最近の研究では、NDST1が持つN-脱アセチル化ドメインとN-硫酸化ドメインが協調してHS鎖のN-硫酸化領域を形成するための構造的基盤が示された21。
N-硫酸化を受けた領域は、さらにGlcAの一部がGLCEによりIdoAへ異性化される。その後、HS2STによるIdoAまたはGlcAの2位の硫酸化やHS6STによるGlcNAcまたはGlcNSの6位の硫酸化が起こる。さらに一部の領域では、HS3STによりGlcNSの3位が硫酸化される3。この3-O硫酸化は比較的まれな修飾であるが、アンチトロンビンなどの特定のタンパク質による認識に重要な構造を形成する。
HS鎖の特徴は、これらの修飾が鎖全体に均一に入るのではなく、特定の領域に集中して導入される点である。そのため、HS鎖上には、硫酸化の少ない領域と、N-硫酸化、2-O硫酸化、6-O硫酸化などが集積した高硫酸化領域が形成される22。このようなドメイン構造により、HS鎖はモルフォゲンや成長因子など多様なシグナル分子と相互作用し、細胞増殖、分化、形態形成、炎症応答などを制御する。
6. GAG鎖伸長の停止機構
同じコアタンパク質であっても、発生時期や細胞種が異なると、GAG鎖が伸長してプロテオグリカンになる場合もあれば、GAG鎖が伸長しない場合もある。このようなGAG鎖伸長のスイッチ機構について、いくつかの経路が知られている(図 4)。まず、リンカー四糖の非還元末端に位置するGlcAの3位がHNK-1ST(別名CHST10)により硫酸化されることで、その後のGAG鎖伸長が阻害されることが知られている23,24。このような硫酸化リンカー四糖は脳に発現するCSプロテオグリカンであるアグリカン上に見られる25。
通常の生合成過程では、Xylがリン酸化されたリンカー四糖は、GAG鎖の重合が開始される前に脱リン酸化される。その脱リン酸化酵素としてXYLPが同定されている26。一方で、リン酸化されたリンカー四糖に対してEXTL2がα1,4結合でGlcNAcを付加する場合もある。その結果生じるリン酸化五糖はHS鎖およびCS鎖の伸長反応の基質として利用されず、その後のGAG鎖伸長が阻害される27。実際に、EXTL2欠損マウスでは、肝臓や脳においてHS鎖とCS鎖の産生が増加することが報告されている27。
別の経路としては、コアタンパク質に特定のタンパク質が結合することで、GAG鎖の伸長が阻害される場合もある。例えば、ニューレキシンと呼ばれる細胞接着分子は、その一部がHS鎖で修飾される。ニューレキシンが分泌経路内でリガンドであるCA10と結合することで、HS鎖の付加が阻害されることが報告されている28。これらの結果は、GAG付加部位の利用が、コアタンパク質配列だけでなく、分泌経路内でのリンカー四糖の構造変化や、コアタンパク質に結合するタンパク質によっても制御され得ることを示している。
図 4. GAG鎖伸長の停止機構
(左)HNK-1STによりリンカー四糖の非還元末端に存在するGlcAの3位が硫酸化されると、その後のGAG鎖伸長が阻害される。(右)通常の生合成過程では、XYLPにより脱リン酸化されたリンカー四糖がGAG鎖伸長の基質となる。一方、EXTL2がリン酸化リンカー四糖にGlcNAcを付加するとリン酸化五糖が形成され、この構造はHS鎖およびCS鎖の伸長反応の基質として利用されないため、GAG鎖伸長が阻害される。
7. プロテオグリカン合成を制御する他の因子
GAG鎖の伸長には、糖転移酵素の基質となる糖ヌクレオチドが細胞質からゴルジ体内腔へ輸送されることも不可欠である。SLC35D1はUDP-GlcAやUDP-GalNAcなどの輸送に関わり、この遺伝子の欠損は、マウスにおいて軟骨CS量とCS鎖長を低下させ、ヒトでは軟骨異形成症の原因となる29。また、UDP-GlcNAcの輸送に関わるSLC35A3の欠損マウスでは、HS鎖に加えてCS鎖も減少するが、CS鎖が減少する機構は十分に解明されていない30。
最近の研究から、GAG生合成酵素はゴルジ体内に無秩序に存在するのではなく、コアタンパク質上で糖鎖修飾が順次進行するように、秩序立って配置されると提唱されている22,31,32。例えば、超解像イメージング解析により、ゴルジ体は複数の“ユニット”から構成され、各ユニット内には糖鎖合成酵素の“ゾーン”が存在することが示された32。GAG合成酵素であるXYLT2のゾーンは、N型糖鎖酵素MGAT1やムチン型(O-GalNAc)糖鎖酵素GALNT6のゾーンとは異なる局在と動態を示す32。また、ゴルジ体の構造維持に必要なGRASP55/65の欠損により、GAG合成、硫酸化、分泌が障害される33。これらの知見は、ゴルジ体の空間構造と酵素動態がGAG生合成を制御することを示している。
8. 今後の展望
近年のクライオ電子顕微鏡技術とAlphaFoldなど機械学習ツールの発展により、プロテオグリカン生合成に関わる個々の酵素の触媒機構に関する構造学的知見が得られつつある。しかしながら、プロテオグリカン生合成機構には、なお多くの謎が残されている。先述のように、CS鎖とHS鎖の仕分け機構の全貌は未だ不明である。この課題を解明するためには、個々の酵素の構造だけでなく、ゴルジ体内においてCS鎖とHS鎖の伸長および修飾に関わる酵素群がどのように配置されているのかを高解像度で解析することが有効かも知れない。加えて、近年のO-GalNAc糖鎖の網羅的解析から、ニューロカン、ブレビカン、バーシカンなどのレクチカン型CSPGには、CS鎖の他にもO-GalNAc糖鎖が豊富に存在することが示された34。プロテオグリカン上で、GAG鎖と他の糖鎖がどのような順序や局在で合成されるのかも、今後の重要な研究課題である。
さらにグライコプロテオミクスの進展により、どのコアタンパク質のどの部位にGAG鎖が付加するのか網羅的に同定することが可能になりつつある5。しかし現状では、GAG鎖をインタクトな状態で質量分析により解析することは難しいため、ほとんどの場合、どの部位に「どのような長さの、どのような硫酸化構造を持つGAG鎖」が付加するかまでは分からない。この課題は、質量分析技術やナノポア計測技術の発展により解決できるかも知れない。関連した課題として、DNAやタンパク質とは異なり、鋳型非依存的に合成されるGAG鎖の鎖長がどのように制御されるのかについても不明な点が多い。例えば、同一細胞内で合成される場合であっても、コアタンパク質の種類によって、そこに伸長するGAG鎖の鎖長や硫酸化構造が異なる場合が知られており、コアタンパク質選択的なGAG生合成のメカニズム解明は今後の課題である。
プロテオグリカンは、発生や組織恒常性だけでなく、疾患病態にも深く関与する。したがって、その生合成機構を明らかにすることは、糖鎖生物学の基礎的理解にとどまらず、疾患の分子病態解明や、プロテオグリカン構造を人為的に制御する新しい技術の開発にもつながると期待される。
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