Apr. 01, 2026

コーヒー粕由来マンナンリッチなホロセルロースナノファイバー
(Glycoforum. 2025 Vol.29 (2), A8)
DOI: https://doi.org/10.32285/glycoforum.29A8J

川村 出 / 金井 典子

川村 出

氏名:川村 出
横浜国立大学 大学院工学研究院 教授, 博士(工学)
2007年 横浜国立大学 大学院工学府 機能発現工学専攻 博士課程後期 修了
横浜国立大学 大学院工学研究院 研究教員、カナダ グエルフ大学 客員研究員を経て、2012 横浜国立大学 大学院工学研究院 助教、2013年 同 准教授、2024年から同 教授。
生物物理化学、生体系固体NMR分光法が専門。日本核磁気共鳴学会 進歩賞 (2023年)

金井 典子

氏名:金井 典子
横浜国立大学 大学院環境情報研究院 助教 博士(理学)
2023年 横浜国立大学 大学院理工学府 化学・生命系理工学専攻 博士課程後期 修了
日本学術振興会 特別研究員(DC1、PD)を経て、2024年4月より横浜国立大学 大学院環境情報研究院 テニュアトラック助教 2024年6月より日本学術振興会 海外特別研究員(西シドニー大学)
専門分野:木質科学・食品科学・農芸化学

1. 序文

食品の廃棄やロスは、世界全体の温室効果ガス排出量の約1割近くを占めるとされ、気候変動を加速させる深刻な要因の一つとなっている1。なかでもコーヒーは、世界的に消費量・流通量ともに極めて大きい農産物であり、その加工・消費過程で大量に発生する使用済みコーヒー粕(spent coffee grounds: SCG)は食品廃棄物となる。現状では、SCGの大部分が埋立処分に回され2、国際コーヒー機関の統計によれば、2022~2023年には約1,114万トンもの排出が報告されている3。一方でSCGは、燃料、バイオポリマーなどの原料として利用可能な成分を多く含む有望なバイオマス資源でもある4。さらに近年では、資源利用を再定義し、異なる産業や技術領域を横断して資源循環を再設計するクロスエコノミーの概念が注目されており、SCGはそのモデル廃棄物として考えられている5。本稿ではこのような背景を踏まえSCGを原料とした新規ナノセルロースの製造プロセス・構造・物性に関する成果について概説する。

2. コーヒー粕由来ホロセルロースナノファイバーの製造

再生可能で大気中の二酸化炭素の固定化物であるセルロースの有効利用が期待されている。セルロースナノファイバー(CNF)は、機械的および化学的解繊プロセスを使用してセルロースをナノメートルスケールの繊維状構造へと微細化することにより、木材をはじめとする多様なバイオマス資源から製造されている6。中でもホロセルロースナノファイバー(holocellulose nanofiber: HCNF)は、リグニンを除去したホロセルロース、すなわちセルロースとヘミセルロースの両画分を保持した原料を用いて製造されるCNFの一形態である7。HCNFは、食品包装材料8、多成分系複合フィルム9、さらには軽量多孔体材料であるエアロゲル10など、幅広い応用可能性が報告されている。一方で、原料バイオマスの種類や多糖組成の違いに起因して、得られたナノセルロースの物性や構造が大きく変化することが考えられている。

SCGは、焙煎度やコーヒー豆の種類によらず、セルロース約10%、ヘミセルロース約40%、リグニン約30%、脂質約15%を含むセルロース系廃棄物資源である11。SCGの1H/13C固体NMR測定によってもこれらの存在が確認されている12。また、SCGに含まれる代表的な単糖組成は、マンノース約29%、ガラクトース約11%、グルコース約11%、アラビノース約2.1%であり、主要なヘミセルロース成分としてはガラクトマンナンおよびアラビノガラクタンが知られている11。ガラクトマンナンは、(1→4)-β-D-マンノピラノースからなる主鎖に、(1→6)-α結合したα-D-ガラクトピラノース側鎖を有する構造を基本とする13。特にコーヒー豆由来のGMでは、β-D-マンノピラノース主鎖に対するα-D-ガラクトピラノースの置換率が極めて低く(約1–2%)、ほぼ直鎖状のマンナン構造を示すことが報告されている14,15。さらに、マンナンにはマンナンI型とII型の結晶多形が存在するが、そのうちセルロースI型に類似した結晶系を有するマンナンI型は高い熱安定性を示すことから、SCG中ではこのマンナンI型に近い構造が支配的であると考えられている。

図1
図 1. 使用済みコーヒーかすからのホロセルロースナノファイバー分離の概略図16
(Ref. 16 (Kanai N et al. Carbohydr. Polym. Technol. Appl. 2024; 8: 100539) under CC BY-NC 4.0 license.)

本研究において我々は、SCGを原料としたHCNFの製造プロセスを確立した16。鎌倉市内のオフィスやカフェなどから回収した乾燥SCGを出発原料とし、まずアセトン/水(9:1, v/v)混合溶媒による脱脂処理を行った後、75℃における亜塩素酸ナトリウム/酢酸系の多段階処理(Wise法)によって脱リグニン処理を行った。この前処理により原料のSCGから約50%の収率でホロセルロース粉末を得ることができ、主成分としてマンナンおよびセルロースが含まれていることを確認した。得られたホロセルロース粉末を水中で2%となるよう分散させ、高圧湿式ジェットミルを用いた機械解繊処理を複数回行うことでナノ微細化を進め、SCG由来のHCNFを得た(図 116。ジェットミルによる処理パス回数を変化させながらHCNF水分散液のレオロジー測定を行った結果(図 2)、SCG由来のホロセルロースの場合には5パスほどの処理で高粘度を示す分散液が得られた。さらに、この分散液はせん断速度の増加に伴って粘度が低下するチキソトロピー挙動を示したことから、本系においては5パス処理がHCNF製造の最適条件であると判断した。これまでに2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)酸化処理17を用いてSCGからTEMPO酸化型CNFを調製した我々の報告18があるが、SCGはもともとセルロース含量が低いため、得られるCNFの収率は約10%にとどまり、歩留まりの低さが大きな課題であった。これに対し、本研究で示したSCG由来HCNFの製造手法は、ヘミセルロース画分を含めて有効利用することにより、この低収率の課題を克服する有効なアプローチであることを示している。

図2
図 2. 様々なパス回数における2% (w/v) HCNF分散液の粘度
分散液粘度は処理パス回数の増加とともに増加し、5パスで飽和した16
(Ref. 16 (Kanai N et al. Carbohydr. Polym. Technol. Appl. 2024; 8: 100539) under CC BY-NC 4.0 license.)

3. コーヒー粕由来ホロセルロースナノファイバーの構造と物性

得られたHCNFの形態や構造を原子間力顕微鏡(AFM)や電子顕微鏡によって観察した(図 3a図 3b)。その結果、驚くべきことに、1パス処理の段階ですでに理論的なミクロフィブリル幅に相当する約3 nmまで解繊が進行していることが明らかとなった。さらに2パス、5パス、10パス処理後においても繊維幅はほぼ一定であり、処理回数による繊維幅の顕著な変化は認められなかった(図 3c16。一方で、HCNFの繊維長については、1-2パス処理後では平均約1 μmであったのに対し、5パスおよび10パス処理後では約0.7 μmまで減少した(図 3d)。また、AFM観察では繊維状構造に加えて、マンナンに由来する直径5~10 nm程度の結晶粒子も観察された。HCNF凍結乾燥体の13C交差分極-マジック角回転(CP-MAS)NMRスペクトルでは、セルロース由来のNMR信号とそれよりもやや強い強度のマンナン由来の信号が同時に観測され、特にマンナンの信号はセルロースよりも線幅が狭く、高い結晶性を有するマンナンI型に帰属された(図 4)。さらに、ホロセルロースの粉末X線回折パターンでは2θ = 16°, 20°, 25°付近にマンナンI型の主要結晶面に対応するピークが検出された。以上から、SCG由来HCNFは幅約3 nmのCNFと数多くの高結晶性マンナン粒子で主に構成されていることが明らかとなった。

図3
図 3. HCNFの形態観察
5パスHCNFの典型的なAFM像(a)およびFE-SEM像(b)マンナンI結晶は、セルロースミクロフィブリル上で非晶質状態から再結晶化したと考えられる。1、2、5、および10パスHCNFの幅(c)および長さ(d)の分布は、AFM像から決定され、それぞれガウス分布および対数正規分布で記述された(黒線)16
(Ref. 16 (Kanai N et al. Carbohydr. Polym. Technol. Appl. 2024; 8: 100539) under CC BY-NC 4.0 license.)。

さらに興味深い点として、HCNF水分散液(濃度約5%まで)を一度凍結乾燥させた後、再び水中で超音波処理などを併用して再分散させたところ、容易に分散状態を回復することが確認されたことである。この挙動は、乾燥によって強固な凝集を生じやすい一般的なCNFには見られない特徴であり、HCNFが貯蔵・輸送・再利用の観点で優れた材料特性を有することを示している。現在は、SCG由来HCNFのヘミセルロース構造や他の特性とともに、ホップつるを原料としたCNFへの蛍光修飾19や疎水化処理20,21などによる表面改質の知見も生かしながら、さらに研究を続けている。

図4
図 4. 5パス処理後のHCNFの13C CP-MAS固体NMRスペクトル(600 MHz Bruker Avance III 分光計)(黒)
デコンボリューションされたピークは、マンナンI(マゼンタ)およびセルロース(シアン)を表す。ピークデコンボリューションは、40~140 ppmの範囲でローレンツ曲線を用いて行われた。多重ピークフィットのR2乗は0.997(赤)16
(Ref. 16 (Kanai N et al. Carbohydr. Polym. Technol. Appl. 2024; 8: 100539) under CC BY-NC 4.0 license.)。

4. おわりに

本稿では、食品廃棄物であるSCGを原料として、機械的解繊方式によるマンナンを豊富に含むミクロフィブリル幅のホロセルロースナノファイバーの製造プロセスを示し、得られたHCNFについて、レオロジー特性およびマンナンの高い結晶性を明らかにするとともに、従来課題とされてきた低い収率の改善を達成したことを概説した。加えて、優れた再分散性を有することを見いだし、SCG由来のHCNFがユニークな特性を備えた新規ナノセルロース材料であることを示した。近年、果物の果皮・葉など植物性の農業・食品廃棄物はナノセルロースの有望な原料であることが注目され、ピッカリングエマルションの乳化安定化剤としての利用に関して広く研究されている22。SCGは発生量が極めて多いことや分別の手間が少ないことから、今後も循環型社会の構築に貢献する重要なバイオマス資源としての活用が期待される。


References

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