エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(ENGase)はN型糖鎖の根元のN,N’-ジアセチルキトビオース(GlcNAcβ1-4GlcNAc)構造中のグリコシド結合を切断する加水分解酵素で、N型糖鎖の構造解析のツールとして長年広く使われてきた。ヒトを含む動物細胞に広く分布するENGaseは細胞質に存在し、遊離N型糖鎖(FNGs)の分解機構に関わることが明らかにされている。最近では、ENGaseが糖タンパク質に直接働き得ることも示され、その生理的役割への関心が高まっている。Engase-KOマウスは特に表現型が見られない一方で、その遺伝子欠損は同じく細胞質に存在する脱N型糖鎖酵素NGLY1(PNGase)のKOマウスの胚性致死性を部分的に回避し、ヒト遺伝性稀少疾患であるNGLY1欠損症の創薬ターゲットとして注目を集めている。最近、ENGaseによりNgly1-KOマウスの表現型が抑制される分子メカニズムの一端が明らかになり、E3ユビキチンリガーゼ複合体SCFFBS2-ARIH1を介した非常に複雑な分子機構の存在が示された。...and more
糖鎖改変技術(Glyco-engineering)は、ペプチドやタンパク質などの生体分子に結合する糖鎖の構造を人工的に設計・改変する技術である。バイオ医薬品の分野では、薬物の特性を調整し、機能性の向上、標的特異性の強化、副作用の低減を目指した多様なアプローチが検討されている。特に、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(ENGase)を用いたモノクローナル抗体(mAb)の化学酵素的な糖鎖改変技術は、抗体薬物複合体(ADC)の部位特異的な結合を可能にするリンカーの提供に有用な手法の一つとして知られている。本稿では、化学酵素的アプローチによる創薬研究の最近の進展と、大規模生産における課題克服のための研究事例について紹介する。...and more
糖鎖はタンパク質の機能発現、安定性、分子間相互作用などにおいて重要な役割を果たしているが、これには糖鎖の構造が密接に関わっている場合が多い。しかし、糖タンパク質の特定の糖鎖付加部位に着目すると、そこに結合する糖鎖の構造は糖タンパク質一分子ごとに微妙に異なっていて不均一であり、機能発現などにも各分子で差違が生じる原因になる。そこで、特定の構造をもった糖鎖をタンパク質に結合させ、圴一性の向上やタンパク質機能・安定性の増強などを目指すのが糖鎖リモデリングである。糖鎖リモデリングにはいろいろな方法があるが、本稿ではエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(endo-β-N-acetylglucosaminidase: ENGase, EC 3.2.1.96)を用いた糖鎖リモデリングに関連して、その基礎知識と、近年見出された糖鎖の非還元末端を認識し、かつ多分岐複合型糖鎖を切断できる新しいタイプのENGaseについて概説する。...and more
エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ (ENGase)は、様々な生物が保有する糖鎖を切断する酵素であるが、その触媒残基を改変することにより、グライコシンターゼとしてN-型糖鎖の改変へ活用できることが明らかとなってきた。
本シリーズでは糖鎖工学に関わるENGaseの研究の進歩について、それぞれの課題に取り組む研究者に解説して頂く。...and more