Apr. 01, 2026

糖鎖の非還元末端を認識する新しいタイプのエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ
(Glycoforum. 2026 Vol.29 (2), A6)
DOI: https://doi.org/10.32285/glycoforum.29A6J

高島 晶

高島 晶

氏名:高島 晶
公益財団法人野口研究所 糖鎖生物研究室 研究員・チームリーダー
1997年東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻博士課程修了。理化学研究所フロンティア研究員、基礎科学特別研究員、福島県立医科大学博士研究員などを経て、2008年より野口研究所勤務、現在に至る。シアル酸転移酵素、セルラーゼ、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ、O型糖鎖関連酵素などの糖質関連酵素の研究に従事してきている。

序文

糖鎖はタンパク質の機能発現、安定性、分子間相互作用などにおいて重要な役割を果たしているが、これには糖鎖の構造が密接に関わっている場合が多い。しかし、糖タンパク質の特定の糖鎖付加部位に着目すると、そこに結合する糖鎖の構造は糖タンパク質一分子ごとに微妙に異なっていて不均一であり、機能発現などにも各分子で差違が生じる原因になる。そこで、特定の構造をもった糖鎖をタンパク質に結合させ、圴一性の向上やタンパク質機能・安定性の増強などを目指すのが糖鎖リモデリングである。糖鎖リモデリングにはいろいろな方法があるが、本稿ではエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(endo-β-N-acetylglucosaminidase: ENGase, EC 3.2.1.96)を用いた糖鎖リモデリングに関連して、その基礎知識と、近年見出された糖鎖の非還元末端を認識し、かつ多分岐複合型糖鎖を切断できる新しいタイプのENGaseについて概説する。

1. エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼと糖鎖リモデリング

タンパク質に結合する糖鎖は大別すると、タンパク質中のAsn-Xaa-Ser/Thr(Xaa≠Pro)配列のAsnに結合するN-結合型糖鎖と、Ser/Thrに結合するO-結合型糖鎖があるが、ENGaseを用いて実施する糖鎖リモデリングはN-結合型糖鎖を対象とする。ENGaseはN-結合型糖鎖の根元(還元末端側)にある2つのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基間を切断し、N-結合型糖鎖を遊離する酵素である。ENGaseの中にはこの糖鎖切断反応の逆反応である糖転移反応を触媒するものが存在する。本酵素による糖鎖切断後、タンパク質やペプチド上には一残基のN-アセチルグルコサミンが残るが、ここにENGaseの糖転移活性を利用して特定の構造をした糖鎖を転移させるのがENGaseを用いた糖鎖リモデリングの基本原理である1-3。本法では、糖転移反応に化学合成するなどした純度の高い糖鎖を用いれば、極めて均一性の高い糖タンパク質が調製できる。

他の糖鎖リモデリングの方法としては、特定の糖鎖関連遺伝子を発現抑制、あるいは強制発現させた細胞において糖鎖改変したい糖タンパク質を生産させる方法4-6や、糖タンパク質にシアリダーゼ、ガラクトシダーゼといった糖加水分解酵素やN-アセチルグルコサミン転移酵素、ガラクトース転移酵素、シアル酸転移酵素といった糖転移酵素を作用させて目的とする糖鎖を糖タンパク質上に形成する方法7などがある。これらの方法ではN-結合型糖鎖、O-結合型糖鎖のいずれも改変できる。

糖質関連酵素のデータベースであるCAZy8,9による分類では、ENGaseは糖加水分解酵素(Glycoside hydrolases: GHs)ファミリーのGH18とGH85に分類されている。GH18ファミリー酵素にはENGaseのほかにキチン分解酵素(キチナーゼ)の仲間も含まれる。GH18ファミリーENGaseの活性部位にはDxxDxDxEというアミノ酸配列モチーフが、GH85ファミリーENGaseの活性部位にはNxEというアミノ酸配列モチーフが保存されている。これらのモチーフへの変異導入で切断活性を抑制し、糖転移活性を顕在化させたグライコシンターゼとよばれるENGase変異体が糖鎖リモデリングにおける糖転移反応で活用されている。

2. エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼの基質特異性

ところでN-結合型糖鎖は大きく3種類に分けられる(図 1)。高マンノース型糖鎖は糖鎖の還元末端側にある2つのN-アセチルグルコサミン残基を除く糖鎖部分がマンノース(Man)で構成されている糖鎖である。複合型糖鎖は2つのGlcNAcβ1,2Man構造と、構成糖としてマンノース、N-アセチルグルコサミン以外にシアル酸(Sia)、ガラクトース(Gal)、フコース(Fuc)といった糖を含む糖鎖である。複合型糖鎖には分岐鎖が2本からそれ以上の多分岐構造をもつものや、糖鎖の還元末端側にあるN-アセチルグルコサミンにα1,6-結合で付加したコアフコースとよばれるフコース残基を含むものなどがあり、その構造は多様である。混合(ハイブリッド)型糖鎖は糖鎖の分岐構造のうち片側が高マンノース型糖鎖、もう一方がGlcNAcβ1,2Man構造のある複合型糖鎖の特徴をもつ糖鎖で構成されている。なお高マンノース型糖鎖、複合型糖鎖、混合型糖鎖いずれも糖鎖の還元末端側の5糖からなるコア構造(Man3GlcNAc2)は共通である。

図1
図 1. N-結合型糖鎖の構造

多くのENGaseはこれらのN-結合型糖鎖に対し基質特異性を示す1,2。ENGaseを用いた糖鎖リモデリングでは、まず対象となる糖タンパク質のN-結合型糖鎖をENGase処理によって切断し、タンパク質上にN-アセチルグルコサミン(+コアフコース)が残ったアクセプター基質を調製する必要がある(図 2)。従って、アクセプター基質にする糖タンパク質にどのようなN-結合型糖鎖が結合しているかによって、糖鎖切断に用いるENGaseを適切に選択しなければならない。市販されている既存のENGase10では、Endo Hのように高マンノース型糖鎖、混合型糖鎖を切断する酵素や、Endo-Mのようにコアフコースが結合していない2本鎖複合型糖鎖を切断できる酵素(ただしコアフコースが結合した2本鎖複合型糖鎖を切断できる変異体(W251N)もある11)、Endo F3のようにコアフコースが結合している複合型糖鎖を好んで切断する酵素、などが利用可能である。また抗体糖鎖の切断においては、IgG抗体のFcドメイン上にある糖鎖に特異性の高いEndoSやEndoS2といった酵素がよく利用されている。

図2
図 2. エンド-β-Nアセチルグルコサミニダーゼによる糖鎖リモデリングの概略

上述したように複合型糖鎖については3〜5本鎖の多分岐糖鎖やbisecting GlcNAcとよばれる分岐構造をもつものがある。3本鎖や4本鎖、bisecting GlcNAcを含む複合型糖鎖は、ヒトにおいても様々な糖タンパク質に見出されているし、5本鎖複合型糖鎖は鳥類や魚類の糖タンパク質に見出されている12,13。このような複雑な構造をした分岐型の複合型糖鎖をもつ糖タンパク質からアクセプター基質を調製する場合、ENGaseでそれらの糖鎖を切断できないとアクセプター基質上に糖鎖が残存してしまい、糖鎖リモデリングによって均一構造の糖鎖のみをもつ糖タンパク質を調製するのが困難になる。

4本鎖などの多分岐型の複合型糖鎖を効率よく切断できるENGaseは、これまで報告例14-16が限られていた。しかし近年になって、コアフコースの有無に関わらず、多分岐糖鎖を効率よく切断できる新たなENGaseが見出されるようになってきた。その一例としてTannerella属細菌由来のGH85ファミリーに属するENGase (Endo-Tsp1006, Endo-Tsp1263)を紹介する17。これらの酵素は多分岐糖鎖を切断できることに加え、糖鎖の非還元末端の構造を認識して選択的に切断活性を発揮するという特徴をもっていた。すなわち、Endo-Tsp1006は糖鎖の非還元末端がα2,6結合したシアル酸やガラクトースである糖鎖を、Endo-Tsp1263は糖鎖の非還元末端がN-アセチルグルコサミンである糖鎖を好んで切断した(図 3)。このような糖鎖の非還元末端を認識して複合型糖鎖を選択的に切断するENGase はこれまで知られておらず、糖タンパク質上の特定構造の糖鎖のみを切断、あるいは残存させるといった用途にも使える可能性がある。Endo-Tsp1006やEndo-Tsp1263のホモログ酵素14,15,18,19を含めた新たなタイプのENGaseを活用することで、現在では様々な糖タンパク質から糖鎖リモデリング用のアクセプター基質が調製できるようになった。

図3
図 3. Endo-Tsp1006とEndo-Tsp1263の基質特異性の違い
糖鎖の非還元末端にα2,6結合したシアル酸がある2〜4本鎖複合型糖鎖がおもに結合しているα1-酸性タンパク質(a)と、糖鎖の非還元末端にN-アセチルグルコサミンがある2〜5本鎖複合型糖鎖がおもに結合しているオボムコイド(b)を基質として、Endo-Tsp1006とEndo-Tsp1263の糖鎖切断活性の違いを調べた。なお、それぞれの糖タンパク質には複数のN-結合型糖鎖付加部位がある。糖鎖が切断された場合、基質タンパク質のバンドが低分子側にシフトする(a’, b’)。Pepetide-N-glycosidase F (*)は主要なN-結合型糖鎖のほとんどを切断できる酵素。

3. 糖転移反応における課題

ENGaseを用いた糖鎖リモデリングでは、ENGase変異体などを用いてアクセプター基質に糖鎖を転移させるが、現時点では糖タンパク質由来アクセプター基質に対して効率よく4本鎖以上の多分岐複合型糖鎖を転移できるENGase変異体は開発されていない。上述のEndo-Tsp1006、Endo-Tsp1263やそのホモログ酵素の場合では、単糖などの小分子への転移活性は認められているが16、糖タンパク質由来のアクセプター基質に対する糖転移反応にはまだ課題がある。

現在、ENGaseを用いた糖鎖リモデリング法は、抗体や一部の糖タンパク質の糖鎖改変に活用されているものの、その適用範囲はまだ限定的である。しかしながら、多分岐複合型糖鎖を含めた様々な糖鎖を効率よく切断・転移できる酵素が利用可能になれば、糖鎖リモデリングにおけるより強力なツールになり得る。今後はそのような酵素開発が進み、ENGaseを用いた糖鎖リモデリングの適用範囲がさらに広がることを期待したい。


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